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僕は生態学研究室に所属し、卒業論文では、タカハヤという淡水魚の遺伝子を調べ、遺伝子の違いによる分布図を作成しました。
魚に興味を持つようになったのは、父の影響です。幼少の頃から父が川や山に連れていってくれて、野外での遊びや採集した生き物について、いろいろと教えてくれました。
田舎らしい雰囲気が一目で気に入って高知大学に進学しましたが、とくに授業が楽しくなったのは、やはり専門的な授業内容が多くなった2年生以降です。そして、昔から好きだった淡水魚の研究ができる場として、生態学研究室を選びました。「現場が第一」という担当教授の考えが自分と一致したことも、この研究室を選んだ大きな理由です。
生物は、同じ種内であっても、遺伝子を調べてみると地域別にかなりの違いが起こっていることがよくあります。タカハヤは、食用魚にされていない、言わば有用魚ではない魚。だからこそ、地理的な遺伝の相違が反映されていると思い、この魚をテーマに選びました。
まず、四万十川、仁淀川など四国のおもな一級河川10本を定めて車でまわり、タカハヤのサンプリングを行いました。採集したタカハヤは、ヒレを切ってDNAを抽出します。その後、専門ソフトで塩基配列を解析し、個体の遺伝子のグループ分けを行いました。
タカハヤは遺伝子を調べることで、その歴史が詳しく分かるんです。自分で採集し分析したタカハヤの遺伝子グループを四国地理の論文などと見比べ、地理的な違いによってどのように分化していったか調べました。
研究で一番大変だったのは、遺伝子の勉強です。DNAの実験方法はかなり確立されています。でも使用する溶液の特性やなぜそれを使うのかなど、過程もすべて理解しなければ、実験が失敗したとき、その原因が特定できません。また、DNAの実験で使う試薬の分量は、0.5マイクロという目に見えないような単位で、そのほとんどが透明なんです。細かい作業が多いうえ、最終的にデータが出なかった場合、色の違いがないためどこで間違えたか分からず、とても苦労しました。
タカハヤは渓谷や山の奥のほうなど、かなり上流に住んでいる魚なので、採集は泊まり込みで出かけました。
釣り竿を持って一人で里山に行くので、最初は不審者のように地元の人にじろじろ見られます。そんなときは、名前を名乗って、デジカメの写真を見せながら、おじさんに話しかけるんです。そうすると、笑顔になったおじさんが魚に詳しい別の人を呼んでくれたり、タカハヤがたくさんいる崖の下に連れていってくれたり、とても親切にしてくれました。山奥なので車中泊ばかりでしたが、なにより現場が大好きで、実際にフィールドに出てサンプリングを行う卒業論文に取り組みたいと思っていたので、とてもやりがいのある楽しい経験でした。
大学の勉強は、卒論に限らずすべて自己責任です。それが大変でもあり、でも半年前の自分より知識も増え、できることも増え、それが楽しみでもありました。
一年かけて真剣に取り組んだ採集、実験、論文作成は、とても体力のいる作業だったと思います。失敗続きのスランプもありましたが、論文が一冊の本として完成した今は、思い入れがあります。好きな分野を徹底的に研究したことで、勉強の面でも、人生経験の面でも、いろいろなことが吸収できました。
大学院でも、引き続きタカハヤの遺伝的分化の研究を続けたいと思っています。学部生のときは四国だけでしたが、地域を広げて、九州、中国、近畿、中部、さらに対馬や韓国にも採集に行きたいです。
高知大学農学部は、山、川、海といった最高の「現場」がある場所。ここで、自分の興味のある分野をその専門家から教えてもらうことは、高校時代とは異なるとても大きな「学び」です。これからの学生生活も、自分にとって有意義な「学び」の時間にしていきたいと思っています。