文部科学省特別経費プロジェクト

海洋性藻類を中心とした
地域バイオマスリファイナリーの実現に向けた新技術の創出

研究プロジェクトの目的

 資源を循環して持続的に有効活用する技術開発は、我が国が科学技術創造立国として世界に伍した競争力を維持するために、極めて重要な課題である。その中の1つである、バイオマス資源の持続的な育成技術および高度利用技術は,地球温暖化の抑制、循環型社会の構築、地域活性化、森林および水資源の管理など多岐にわたる課題の解決への指針ともなる。そこで、将来の持続型社会の実現に向けて、地域性や社会情勢に適合するようにバイオマス資源の選択肢を広げることは、非常に重要である。また、バイオマス資源を無駄なく化学資源などとして高度利用する技術は、1次産業の価値向上への効果も期待される。東日本大震災以降、資源・エネルギー政策の見直しにより、バイオマス資源の活用に対する社会的な期待は増している。そして、従来型の、非可食バイオマスである木本・草本系などの淡水で育つ陸上植物に着目し、液体燃料や化学原料に変換するバイオリファイナリー研究は、現在も盛んに行われている。しかし、地域性を活かしたバイオマス資源の利活用、持続的な資源育成サイクル、無駄のない高度利用、貴重な淡水資源の有効利用、の視点に基づいた学術研究は不十分と言える。

 日本は海に囲まれており、世界第6位の排他的経済水域を有する。高知県も温暖で長い海岸線沿いをもつ。東南アジアなどの近隣諸国も同様である。海洋性藻類は、陸上の高等植物と比べて、成長速度およびCO2吸収効率がはるかに高い種が多く、また植物構造が柔らかい特徴を有する。さらに、貴重な淡水中ではなく海水中で生育することも、海洋性バイオマス資源を確保することの中長期的な重要性を示唆している。すなわち、海洋性藻類バイオマス高度利用の新技術創出は、バイオマス資源に期待される、地球温暖化の防止、循環型社会の形成、戦略的産業の育成、地域活性化-国際貢献、のいずれの点のおいても貢献度は非常に高いと想定される。

 一方で、高知県は全土の約84%が森林であり、未利用材を用いた木質ペレット燃料を用いた木質バイオマス発電が、H27年に県内2か所で本格始動を開始した。木質ペレット利用は、物質循環的には有機資源を余すところなく使うことが特徴であり、社会経済的には1次産業の材木業界の下支えによる山間地域活性化への期待が大きい。木質ペレット利用の喫緊の課題の1つとして、焼成灰の処理問題がある。焼成灰は、木質ペレットの数重量%排出され、産廃扱いである。

 本学では、本プロジェクトの準備として、H22-23年度及びH26年度に学長裁量経費プロジェクト「海藻資源の高度有効利用を実現する抽出-変換プロセスの開発」及び「海藻由来多糖の化学・生物的変換技術開発と新規生理活性物質の創出」により、藻類学/触媒化学/微生物学の分野横断的学際研究を行い、多くの成果を上げた。それらのプロジェクトを経て得られた知見をもとに、海洋性藻類バイオマスの実用化において、①大量育成へのスケールアップ、②高度変換技術の開発、という継続課題とともに、③最終残渣の再資源化、および、④バイオマスの地域性、に関する課題を見出した。

 このような背景のもと、高知大学では、平成27年度概算要求事項として、「海洋性藻類を中心とした地域バイオマスリファイナリーの実現に向けた新技術の創出」の研究プロジェクトを申請し、採択を受けることになった。本プロジェクトでは、(1)成長速度の高い海洋性藻類を温暖な気候で海洋深層水を利用した大量育成する技術の創出、(2)海藻バイオマスのデンプン成分からエタノールを得るだけでなく含有する有機資源を無駄なく高度徹底利用するための生物的および化学的変換プロセスの開発、(3)リン、窒素などの無機物を多く含有する残渣の再資源化に対する学術的基盤の構築、(4)地域における持続的なバイオマス事業の実現のための経済評価・地域活性化に取組む。特に、地域活性化に対して、ミナミアオノリなどの海藻の育成から全利用、および、木質ペレットなどの焼成灰の利用に関するイノベーションを創出することでの貢献を目指す。

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