宇高 恵子

 脊椎動物以降に発達した適応免疫系は、蛋白質の1アミノ酸の違いも見分けが可能である。しかも、抗原とそうでないものとの2分された世界ではなく、1分子レベルでの結合親和性をみると、自己−非自己の境界は連続している。T細胞は、自己のMHC(主要組織適合性複合体)分子を積極的に認識し、分化や生存のシグナルを得る一方、同じ自己MHC分子に提示された抗原を認識すると、抗原を攻撃し排除する方向へと応答を開始する。この相反する応答が、同一のT細胞レセプターを介してT細胞内に正しく送り分けられるしくみについて研究を進めている。

  1. まず、抗原や自己MHC分子の実体(MHC−ペプチド複合体)を明らかにしてきた。この過程で、T細胞に抗原を提示するMHC分子の特異性の解析方法(ペプチドライブラリー法、隠れマルコフアルゴリズム)を開拓し、抗原の同定やワクチンのデザインに役立つMHC結合性ペプチドの自動予測を可能にした。
  2. 次に、T細胞レセプターが、1分子レベルで自己、非自己のMHC-ペプチド複合体をどのように見分けるか、について認識の特異性と結合親和性の違いについて研究をしている。
  3. さらに、自己、非自己のMHC-ペプチド複合体に対する1分子レベルでの認識の違いが、T細胞上でどのような情報受容の違いを引き起こすか、を解析し、自己認識の際にはFynを介して抑制系が駆動されることを明らかににした。この下流の分子反応について、さらに研究を進めている。
  4. 胸腺内で未熟T細胞が自己のMHCクラスI、クラスII分子を見分けてキラー、ヘルパーT細胞に分化し分けるしくみを調べている。
  5. 以上の情報を、がんや難治性感染症、自己免疫疾患の治療に応用すべく研究を進めている。