細胞は癌化に伴い細胞表面の糖鎖構造が変化し、変化した構造の一部が、転移や浸潤などに関与すると考えられているが、未知の部分が多く残る。そこで我々は、癌化にともなう糖鎖の変化を総合的に理解することで、糖鎖の癌での役割解明や、癌の糖鎖マーカーの探索などを目的とした研究を行っている。具体的なストラテジーは、まず、ヒトサンプルを用いて癌化に伴う糖鎖構造変化の詳細な解析を行う。その情報をもとに、構造変化に関連する糖転移酵素の活性、発現量などを総合的に解析し、それらと転移の有無などの臨床情報とを照らし合わせる作業を行っている。糖鎖のなかで、糖脂質にフォーカスを絞り、その構造を高精度、高感度に解析する技術を独自に確立し、使用している。現在までに、大腸癌60症例(うち17症例が肝臓転移を認めた)、膵臓癌5症例の糖鎖構造解析が終了している。解析の中で、腫瘍マーカー候補となりうる、2種類の新規の癌特異的な糖鎖構造を見出した。癌化に伴いほぼ全症例に共通する変化と、肝臓転移や低転移能に関連する可能性のある特徴的な変化を見出した。さらに糖鎖構造変化が、関連する糖転移酵素の活性や発現量変化に概ね依存するものと、依存しないものとが存在し、複雑な合成メカニズムが推測された。
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