糖鎖はタンパク質の翻訳後修飾に関わる生体分子で、最近その生物学的機能の重要性が次々と明らかにされてきた。中でも、フコースによる糖鎖修飾は、フコシル化と呼ばれ、がんや炎症と最も関係が深い糖鎖の1つである。近年、微量解析技術の進歩によって、プロテオミクス研究が脚光を浴び、様々な新規マーカーの候補が同定された。しかし、癌においては、むしろ翻訳後修飾などタンパク質の質的変化が重要なことが多く、新しい糖鎖マーカーの開発はエポックメーキングな研究と言える。また、腫瘍マーカーは単に診断や治療のモニターにとどまらず、癌の持つ生物機能の生化学的な表現型であり、そのメカニズムの解析は新たな治療法の発見につながるだろう。肝臓がんの腫瘍マーカーとして知られるAFP-L3(フコシル化AFP)は、最も特異性の高いマーカーであり、演者は長年その産生機構に関する研究を続けて来た。また、今日最大の難治がんとして知られる膵がんの新しい腫瘍マーカーとして、フコシル化ハプトグロビンを発見した。本セミナーでは、フコシル化反応の制御機構の解析から生まれた様々な基盤データを紹介するとともに、消化器疾患を中心に臨床応用への可能性についても言及し、土佐の研究者の方々に、ご批判いただきたいと思う。
[連絡先] 〒 783-8505 高知県南国市岡豊町小蓮 高知大学医学部生化学講座 TEL: 088-880-2588 FAX: 088-880-2314