円石藻は海洋の主要な第一次生産者であり,動物プランクトンのエサとして,海洋の食物連鎖の底辺を支えています。
動物プランクトンに食べられた円石藻は,細胞の部分は消化・吸収されてしまいますが,炭酸カルシウムで出来たコッコリス(円石:石灰質鱗片)の部分は消化されることなく排泄され,糞の中に閉じこめられた状態で沈降して,海底に堆積します。
海底の堆積物(泥)は何から出来ているのでしょうか?
陸に近い沿岸の海底の泥は,主に,河川などによって陸から運ばれてきた砂や泥が堆積したものです。しかし陸から遠く離れた外洋までは,河川由来の砂や泥は届きません。そのため外洋の堆積物は,上から降ってくるもの,つまり,海水中にいた生物の死骸から主に出来ています。
食物連鎖の上位にいる「魚」などは,もともとの数が少ないので,化石を見つけることは容易ではありません。しかし,円石藻や珪藻などの微細藻類は,もともと莫大な数がいるので,化石は海底の泥の中から容易に見つけることが出来ます。より正確に言うならば,海底の泥は,その成分のほとんどが円石藻や珪藻の遺骸(化石)から出来ているのです。
深海底堆積物は上から降ってくるもので出来ているので,下位ほど年代が古くなります,そのため,深海底堆積物を下に向かって掘り進めることによって,円石藻(化石)の進化をさかのぼって連続的に調べることが出来ます。そのため円石藻は,化石記録に基づいて進化が非常に詳しく調べられています。
円石藻は三畳紀(2億2千万年くらい前)に出現しました。ジュラ紀〜白亜紀にかけて徐々に多様化して種数を増やしましたが,白亜紀末のメキシコのユカタン半島への隕石衝突による絶滅事件の際には,恐竜やアンモナイトなどのその他の多くの生き物とともに,約90パーセントの円石藻の種が絶滅してしまいました。現在の海洋にいる円石藻の仲間は,絶滅事件を生き延びた種から,多様化・進化したものです。
白亜期末(6500万年前)の大絶滅事件を生き延びた種の大半も,現在までに絶滅してしまいました。しかし一部の種は,白亜紀の頃の姿のままで現在まで生き残っています。そのような,昔の姿を今に伝える種を,「生きている化石」と呼びます。
これまでの研究から,泊港とその周辺の海域には,白亜紀から生き残っている「生きている化石」と呼ばれる円石藻が多数生息していることが分かっています。