研究トピックス

 

IODP南極海ワークショップレポート

IODP南極海ワークショップレポート

池原 実(高知大学)


会議名:Antarctica’s Cenozoic ice and climate history: New Science and new challenges of drilling in Antarctic waters

会場:IODP, Texas A&M, College Station

日程:9-11 May 2016


ワークショップ案内サイト


 南極海(南大洋)でのIODPプロポーザルの現状および今後の戦略について議論するワークショップが開催された。日本からは池原が参加した。参加者はおよそ80名で、学生が30名程度含まれていた。IODP-TAMUのTrevor WilliamsおよびDenise Kulhanekがオーガナイザーを努めた。


9 May 2016


 Trevor Williamsからワークショップの趣旨が説明された。現在、IODPシステムに南極海のプロポーザルが多数存在し、プロポーザルプレシャーが高まっている状況であること、実際の航海実施のためには海氷状況、天候、砕氷船サポートなど様々な検討課題があること、などが説明され、本ワークショップではそれらについて議論、情報共有することを目的とするとされた。また、ワークショップレポートをまとめて、5月17-18日に開催されるJRFBに提出するとのことであった。

 1日目は、南極海の深海掘削、陸棚掘削の歴史と成果のレビュー、SCAR-PAISなど関連プログラム、プロポーザルのレビュープロセスについて紹介があった。その後、それぞれのプロポーザルの概要と現状についてプロポーネントから紹介された。紹介されたプロポーザルは次の通り。


○Presentations on Antarctic and Southern Ocean drilling proposals at JOIDES Resolution Facility Board:

・751 Ross Sea (Rob McKay et al.)

・839 Amundsen Sea Embayment (Karsten Gohl et al.)

・732 Antarctic Peninsula and West Antarctic Ice Sheet (Jim Channell, Rob Larter et al.)

・567 Paleogene South Pacific APC Transect (Debbie Thomas et al.)


○Updates on Antarctic and Southern Ocean drilling proposals:

・813-MSP George V Land (Trevor Williams, Carlota Escutia et al.) MSP expedition scheduled for Dec 2017 to Feb 2018

・848 Weddell Sea (Mike Weber et al.) SEP

・847→902 Iceberg Alley (Mike Weber et al.) Resubmitted to SEP, April 2016

・868-Full Drake-Scotia Gateways (E. Thomas et al.): deactivated

・862-Pre: Maurice Ewing Bank-Georgia Basin Depth transect (E. Thomas): SEP

・812-MSP Southeastern Ross Sea (Doug Wilson et al.): SEP

・868 Scotia Sea (Javier Hernandez Molina et al.): deactivated

・SUBANTPAC, Drake Passage (Frank Lamy, Gisela Winckler et al.); deactivated

・834-Full2: Agulhas Plateau (Gabi Uenzelmann-Neben et al.); SEP

・863-MDP ISOLAT; a daughter proposal 863A: submitted to SEP, April 2016 (Minoru Ikehara)

・824-pre Conrad Rise: deactivated (Minoru Ikehara et al.)


 その後、南極海掘削に関係するいくつかのトピックス(データ・モデルリンケージ、海水準変動とGIAなど)についてプレゼンが行われた。特に、Rob DeContoからは、プロキシデータとモデルの統合が極めて重要であることが改めて指摘された。

 また、スケジューリングなどに関する議論が行われた。いくつかのポイントを列記する。

・海氷、天候のために1 expedition per yearだろう

・2ヶ月航海に制約されない、短い航海も可能

・Past warm interglacialsを含むいくつかのターゲット時代: LGM, 5e, 31, mid Pliocene (Pliomax 3.3-2.9Ma), MMCO, Oligocene

・JRのシップトラックとしては今後北大西洋へ向かう予定であり、南極海のプロポーザルは全部こなせないかも?優先順位をつけるか?しかし、基本的にはScientific drivenであるべきだ。

・South Atlanticのプロポーザルを溜めることで、JRを南大西洋にしばらくキープさせることになり、南大洋での航海の可能性が高くなるのでは。


18時からBlackwater Draw, microbreweryにて懇親会


10 May 2016


 南極海での掘削航海実施のために必要となる海氷分布、氷山、天候のアセスメントに関するプレゼンが行われた。特に、海氷、氷山については、衛星データによるリアルタイムモニタリングが可能になっていることなどが紹介され、複数のweb site情報が紹介された。これらのweb情報は、今後の南極海掘削および観測航海に非常に有益な情報である。その中でJAXAのAMSR2の評判が良かったのが印象的である。

 午後からは、GCRに保管されている南極海レガシーコアの観察ワークショップのために、準備されたコアの情報が紹介された。その後、IODPコアレポジトリーへ移動し、用意された11セットのコアを30分ごとにローテーションしながら観察するワークショップが行われた。事前に用意されたコアは以下の通り。


1.Sites 270, 271 (Miocene-Pliocene Ross Sea shelf) Examples of clast-rich silty clay, clast-free diatomite (MMCO age?), structureless mud. Relating to IODP-751, 839.

2.Site 270 (Oligocene-Miocene Ross Sea shelf) Examples of marine transgression, diamictite, shallow marine mudstone, glacial rythmites). Relating to IODP-751, 839.

3.Sites 1096, 1101 (Pleistocene Peninsula continental rise sediment drifts) Including MIS interglacials 5, 9, and 31. Relating to IODP-732.

4.Sites 1097 and 1103 (late Miocene-Pliocene Peninsula shelf) Examples of diamictites, proglacial debris flows, and ice-distal muds. Relating to IODP 751, 839.

5.Sites 1171 (S Tasman Rise) and 1218 (equatorial Pacific) Eocene-Oligocene transitions.

6.Site 689 (Eocene to Pliocene at Maud Rise) Antarctic ice sheet evolution through time.

7.Site U1361 (Wilkes Land continental rise) Pliocene sedimentary cycles – diatom-rich and silty clay alternations, iceberg-rafted debris, sediment provenance from Wilkes subglacial basin.

8.Site 742 (Prydz Bay) Pliocene ice retreat in shelf sediments. Diatomite and diamictite.

9.Micropaleontological examples from the IODP collection in the microscope room.

10.Sites 1098 and 1099 (Palmer Deep, Peninsula) Late Pleistocene and Holocene Antarctic sediments showing ice retreat, calving by facies and laminations.

11. Site 1166 (Cretaceous-Eocene Prydz Bay shelf) Examples of organic and mica-rich siltstone, and pre-glacial to glacial unconformity. Relating to IODP-813.


11 May 2016


 前日から引き続いて、レガシーコアの観察ワークショップを行った。バラエティに富んだ岩相、キーとなる時代や気候イベントに関連する堆積物を直接観察することができ、非常に有意義なワークショップとなった。特に、Maud RiseのSite 689からチョイスされたコアは、白亜紀から漸新世のナンノ化石チョークから中新世以降の珪藻軟泥への岩相変化を一目瞭然で実感することができ、最も印象的だった。その他、南極半島沖コアでは、super interglacials (MIS 5e, 31)の岩相変化なども明瞭に読み取ることができた。やはり生のコアを直接観察することの重要性を再認識する機会となった。

 それぞれのコアテーブルでは、航海に参加した人やレガシーコアを使って最近研究した人が岩相や分析結果について解説を加えていた。実際のコア観察は、事前に希望をとった上で11のグループを構成し、シニアと学生が各グループに混在するようにアレンジされていた。コア観察ワークショップは、GCRの長い歴史と経験を感じさせるものであった。


 昼までに予定していたプログラムが終了した。午後は、希望者を対象にレポジトリーツアーとスミアスライド作成・観察実習が行われた。

 また、ワークショップ期間中に若手研究者(ポスドク、大学院生)を対象にして、IODP参加経験のある中堅研究者がサンプルリクエストの書き方について別途レクチャーする時間が設けられていた。


その他、関連する今後のワークショップなどの情報

・PRAMSO @SCAR 8月 クアラルンプール

・PAIS conference, Trieste, Italy, Sept. 10 to 16, 2017














Site 689(Maud Rise)からピックアップされたコア

白亜紀から漸新世のナンノ化石チョークから中新世以降の珪藻軟泥への岩相変化を一目瞭然で実感することがでる。