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深海生物のDeepなページ  

深海に棲む多様な魚類や無脊椎動物について紹介します。

1.深海の環境とは

 私たちは水深200m以深の水域をふつう深海と呼んでいます.そこは高水圧,低水温,暗黒という生物にとっては極限の環境です.海洋は地球表面の72%を占め,その海洋のうち約90%が水深1,000 m 以深の水域です.つまり,深海は極めて広大な領域といえます.深海域での物理的な環境要因となる水圧、水温、空間、光、食物は,表層から深海底まで大きく変化し、そこに棲む生物にとって強力な選択圧となります。また,このような過酷な環境の中で,深海生物は生態的,形態的,生理学的にも多様に適応進化しました. 

【水圧】 水圧は10m潜るごとに1気圧(1 atom = 1.03 kg / cm2)が掛かります。例えば,最も深い水深8,000m付近に生息する魚類のヨミノアシロ(アシロ科)の体には,およそ800気圧が掛かることになります。このような高圧下では,二酸化炭素は気体ではいられず液体化してしまいます.また,生物の体を作るタンパク質も変成してしまいます.しかし,ある種の深海性魚類のタンパク質は,浅い海域の魚類に比べて変成しにくいことが知られています。もちろん,魚の鰾内に空気がある場合は,水面直下からこの水圧の影響を受けます.しかし,深海性魚類の体には水分と油分が含まれ,気体が含まれていないため,生理学的に水圧の影響を受けにくいようになっています。

【水温】 水温は生物の種の分布に強く影響します.それぞれの種には,好む水温の幅があり,その幅はふつう極めて狭いためです。深海域では水温が2〜5℃で安定し、温度差が少ないという特徴があります。

【空間】 生物の生息空間が非常に広大であることは,それぞれの種の分布が極めてまばらとなり,食物や同種,特につがいを探すことが困難になります.三次元的な中深層域にすむ生物は,二次元的な深海底上にすむ生物よりも出会う確率が少ないといえます.

【光】 太陽光は,表層の透明度にもよりますが,およそ水深 700〜1300 m まで達します.青-緑の波長の光(470nm)が最深部まで届きます.人間の眼では水深 200〜800 m まで感知できますが,深海魚はその15〜30倍の感度の眼をもちます.また暗黒の深海域でも,多種多様な生物発光による光りが存在します.中深層域では夕暮れの明るさで,それより深い漸深層域ではつねに暗黒となります.

【食物】 深海にすむ生物の栄養源は,表層の有光層(海洋の3%)に依存しています.この層で生産されるプランクトンの死骸や様々な有機物(ホンダワラ類海藻の破片,デトライタス,糞など)がマリンスノーとして深海に降下し、深海生物の食物となります.また,深海生物の日周的な垂直移動により,生物生産量の多い表層域のエネルギーが深海へ順々に伝わります.ちなみに,漸深海域上部の漂泳性動物プランクトン(ぺラゴス)のバイオマスは,表層の1%程度です.
 深海底に見られる熱水鉱床の生態系は,硫化水素を利用する化学合成細菌が一次生産者となり,その生物量が極めて多いことが知られています。太陽エネルギーの恩恵を受ける植物プランクトンが一次生産者となる生態系とは,根本的に異なります.

* 塩分濃度や溶存酸素も魚類の分布に影響します。溶存酸素の低い水深帯には,種が少ないことが知られています.しかし,例えば,オニハダカ類では鰓弁が発達(通常は退化的)することや、鰾内の酸素濃度を高めることにより,このような水深帯にも生息しています。

2.深海魚とは

 水深200m 以深にすむ魚類がイコール“深海魚”というわけではありません.夜には中深層から表層近くまで浮上し,1日に数百メートル垂直移動するハダカイワシ科魚類のようなグループもいれば,生活史の間に移動する種もいます.ふつうは,仔稚魚期に表層域で生活し,成長にともなって次第に生息水深を深くする場合が一般的です.また,同一種の成魚でも,高緯度や低緯度での垂直分布に相違があるため、深海魚を明確に定義することはできません.おおよその目安とし成魚の生息範囲が主に深海域にかかるものを深海魚と呼んでいます.

【分類】 深海魚には,円口類、軟骨魚類、硬骨魚類に属する多様なグループが含まれます。

 中深層性魚類はおよそ1,150種,深海底生性魚類はおよそ1,500種が知られています。深海魚の多くは,魚類の中でも比較的古い起原をもつグループに属しています.

【鰾“うきぶくろ”】 比較的古い起原をもつ魚類のグループは,ふつう鰾と消化管の間に気道をもちます。しかし、深海性の種では,この気道が二次的に閉じています(閉鰾類と呼ばれます)。これは鰾内のガスが,水圧により口から逃げないようにするためです。中深層域から表層まで日周鉛直移動する種には,鰾内のガス線と血管網(毛細血管の束)がよく発達するものが多く見られます.このガス線と血管網は,鰾内へのガスの供給や,そのガスを血液内へ再吸収するための器官です.日周的な激しい水圧の変化に適応した結果といえます.さらに,より水圧の高い深い水深帯に生息する種では,鰾内部が油分や結合組織で満たされる状態が見られたり,鰾が極めて退化的,もしくは消失していることもあります.このような状態の鰾をもつ種では,骨格系や筋肉系が退化的になり、また体の水分含有量を増やすことで、中性浮力を得ることができます。多くの深海魚の仔稚魚は,表層域で生活するため、一時的に気体を含む鰾をもちます.深海底生性のカスミザメ類では,スクワレン(squalene,密度が低い油分)を含む肝臓がよく発達し(体重のおよそ25%),この油分により浮力を得ています。ギンザメ類も同様に肝臓が大きく、また骨格は軟骨化しています。

【参考文献】

Helfman, G.S., B.B. Collett & D.E. Facey, 1997. The Diversity of Fishes. Blackwell Science, Malden, U.S.A. xii+528 pp.

Paxton, J.R. & W.N. Eschmeyer (eds.), 1998. Encyclopedia of Fishes. 2nd ed. Academic Press, 240 pp.