研究紹介(分子生物学班) 研究グループ:川田千明/執印太郎 |
■VHL癌抑制タンパクの機能に関する研究
VHL癌抑制遺伝子はVHL病のみならず散発性腎癌においても高頻度で変異が認められることから、腎癌発症メカニズムへの関与が推定されているが、その遺伝子産物であるVHLタンパクの機能についての十分な解明はなされていない。近年、VHLタンパクがユビキチン=プロテアソーム系におけるユビキチンリガーゼとして作用することが明らかにされ、その標的タンパクとして低酸素状態で作用する遺伝子転写調節因子(HIF)が同定され血管新生因子の発現制御への関与が報告された。
しかし、血管新生の亢進だけでは初期の腎癌発症機構を説明することは困難であり、VHLタンパクにはHIF以外にも標的タンパクが存在すると考えられている。
当研究室ではVHLタンパクの新規標的タンパクとして細胞内シグナル伝達分子であるatypical Protein Kinase C (aPKC)がユビキチン化され分解されることをこれまでに明らかにしている。aPKCは上皮細胞の極性決定に重要な役割を持つタンパクであることから、現在、VHLの異常によるaPKC分解制御の乱れと細胞癌化の関係について解析を進めている。
■腎細胞癌における遺伝子発現の網羅的解析研究
Clear cell typeの散発性腎癌では、VHL癌抑制遺伝子の異常が高頻度で認められるが、このとき癌細胞全体としてどのような遺伝子群に発現の変動が生じているかは明らかではない。そこでVHL遺伝子欠損の癌細胞株と野生型あるいは変異型VHL遺伝子を発現させた細胞株を材料として、マイクロアレイ解析を用いての網羅的遺伝子発現解析を行っている。
これにより腎細胞の癌化に関与する遺伝子群の同定が進めば発症メカニズムの理解がより進むものと期待される。今後はLaser capture microdissection (LCM)を用いて癌細胞を組織中より選択的に採取して得られるRNAを用いることで前立腺癌等の遺伝子発現解析にも対応していく。
■腎癌における遺伝子メチル化に関する研究
細胞癌化の過程で癌抑制遺伝子が変異や欠失により不活化されることは従来より知られているが、近年遺伝子のプロモーター領域のメチル化によっても遺伝子の発現が抑制されることが明らかになってきた。
消化器系癌等ではメチル化によって発現が抑制される複数の癌関連遺伝子が同定されているが、腎癌のメチル化による遺伝子発現制御については不明の点が多い。
そこで、腎癌由来細胞株および腎癌腫瘍組織由来DNAを材料として、腫瘍組織特異的にメチル化している遺伝子のクローニングを行うことで、腎癌発症機構に関与する癌関連遺伝子の同定ならびに腫瘍マーカーとして使用可能な遺伝子の探索を試みている。
■VHL, MET, BHD, FH遺伝子を対象とした腎癌の遺伝子診断
家族性腫瘍であるVon Hippel-Lindau (VHL) 病の原因遺伝子であり、散発性腎癌でも高頻度で異常の認められるVHL癌抑制遺伝子の他、近年腎癌の新たな原因遺伝子として報告されたBHD遺伝子、FH遺伝子などについても遺伝子診断を実用化し、これらの遺伝子の異常と腎癌発症メカニズムの関連についての研究を行っている。
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