分類体系のページへ戻る

"Gnathifera" 有顎(担顎)動物(ゆうがく・たんがく)(3,800)

1. Phylum Rotifera 輪形動物門(りんけい:3,000**)
2. Phylum Acanthocephala 鉤頭動物門(こうとう:700*)
3. Phylum Gnathostomulida 顎口動物門(がくこう:100*)
4. Phylum Micrognathozoa 微顎動物門(びがく:1) *Limnognathia maerski のみを含む


Phylum Rotifera 輪形動物門  *ラテン語 "回転する車輪 (=rota) をもつ (=ferre) 動物の意味"
*すべて小型種.体サイズは1 mm 以下で,ほとんどの種は 0.5mm
以下.淡水・海産

おもな特徴
1.三胚葉性,左右相称,体節はなく,偽体腔をもつ
2. 体は頭部,胴部,肢部からなり,体は2細胞層以上の厚さで,組織と器官をもつ
3. 頭部に繊毛冠 (corona)をもつ *2つの繊毛帯(口前繊毛帯+口後繊毛帯=繊毛冠)の動きが回転する車輪に見える

   **繊毛の動きにより水流を作り,食物粒子を口へ運ぶ  ***トロコフォア幼生に似る
4.咽頭咀嚼嚢 (mastax) の内部に咽頭咀嚼器 (trophi) をもつ *咀嚼器の構造は食性と関係し,重要な分類形質のひとつ
5.消化管は完全,口,筋肉質の咀嚼嚢,咀嚼器,腸と肛門をもつ(総排泄腔をもつ)
6.表皮の細胞内クチクラが被甲を形成する
6.趾(あしゆび,足指)をもつ *付着器の役割
7.原腎管をもつ
8.循環器系と呼吸器系を欠く
9.雌雄異体だが,雄は稀にしか存在しない(存在する場合は,矮雄 わいゆう).ほぼ雌のみの単為発生.
10.変形型のらせん卵割で,直接発生し,幼生期をもたない.耐性の高い休眠卵をつくる

分類 *“輪形動物門
の伝統的な分類体系では3綱を認める
 ウミヒルガタワムシ綱 Seisonidea
 ヒルガタワムシ綱 Bdelloidea
 単生殖巣綱 Monogonata


Phylum Acanthocephala 鉤頭動物門 *ギリシャ語“棘 (=akantha) もつ頭 (kephale) ”の意味
*体サイズは1 mm 前後から1 m まで *すべて脊椎動物の腸管内に寄生する

おもな特徴
1.三胚葉性,左右相称,偽体腔をもち,体節はない *表面的には環紋をもつものがある
2.鉤(かぎ,吻鉤)をもつ吻 と円筒形の同部からなる *吻は吻鞘の中に陥入する
3.体表にクチクラ層をもち,管網系 (lacunar system) を備える
  *クチクラ内側の表皮内を網目状に走り,栄養を全身に運ぶ *栄養は体表から吸収し,開口部はない 
4.2本の垂棍(lemniscus, すいこん =棍棒状の組織) をもつ *栄養を蓄える器官
5.環状筋と縦走筋をもつ
6.循環器系,呼吸器系と消化器系はない
7.原腎管をもつ
8.神経系は単純で,吻鞘中の脳神経節から各組織へ神経が伸びる
9.生殖器はよく発達し,雌雄異体.交尾による体内受精
10.アカントールあるいはアカンテラ(acanthor あるいは acanthella) 幼生(幼虫)

分類 *鉤頭動物門とする場合は次の3綱
 
原鉤頭虫綱 終宿主は鳥類・哺乳類
 古鉤頭虫綱 終宿主は魚類・両生類・爬虫類・鳥類・哺乳類
 始鉤頭虫綱 終宿主は魚類・爬虫類(カメ類)

系統
 卵割様式など発生過程,表皮細胞内のクチクラ,神経系や精子の微細構造の特徴と分子系統解析から輪形動物のヒルガタワムシ類に近縁と推測されている.


Phylum Gnathostomulida 顎口動物門 *顎(gnathos)のある小さな口(stoma)をもつ
*体サイズは 1 mm 以下(0.2~3.5 mm) *日本近海からは知られていない

おもな特徴
1.三胚葉性,左右相称,体節はなく,無腔で円筒形の体をもつ
2.上皮細胞は1本の繊毛をもつ
3.口は前方の腹面に開き,消化管は不完全で,肛門は退化または消失する
4.
咽頭はクチクラ性の顎の構造をもつ *口器は1対の基板と1対の前方へ伸長する顎からなる
5.循環器系,呼吸器系,排出系はない
6.雌雄同体(雄性先熟あるいは同時成熟)の体内受精で,受精卵を産む
7.らせん卵割で直接発生し,幼生期をもたない
8.海底の堆積物の間隙中に生息し,有毒な硫化水素がわずかに存在する環境を好み,硫黄酸化細菌を餌とする

系統
 最初は扁形動物の一群とされたが,1969年には新しい動物門とされた.顎の特徴から輪形動物と微顎動物との近縁性が示唆される.


Phylum Micrognathozoa 微顎動物
*2000年にグリーランドの湧水で採集された Limnognathia maerski を基に,“担顎動物門”の1綱として設立された.体サイズは約 0.2 mm.グリーンランドと南極海のクローゼット島での採集記録のみが知られる.

おもな特徴
1.三胚葉性,左右相称,偽体腔をもち,体節はない 
2.体は頭部,胸部および腹部からなる
3.表皮は多核体となはらず,背側と体側では細胞内に板をもち,腹側では板がなく,繊毛のないクチクラ性の大きな口板となる
4.腹側に2列に並ぶ繊毛を使って移動する
5.胸部に2対の原腎管をもつ
6.体の各部に感覚毛をもつ
7.雄のみが知られ,生殖方法は不明

系統
 クチクラからなる棒状の顎はオスミウム親和性のある物質を含む.この顎の特徴は顎口動物や輪形動物と共通する.分子系統解析のうち,核DNAではこれら3群の近縁性が,ミトコンドリアDNAでは内肛動物と近縁がそれぞれ示唆される結果となった.その系統的位置は定まっていない.


参考文献
藤田敏彦.2010.新・生命科学シリーズ 動物の系統分類と進化.裳華房.195pp.
本川達雄.2009.図解無脊椎動物学.朝倉書店,東京.577pp.


Hiromitsu ENDO