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2006年7月7日 高知新聞朝刊「所感雑感」

「アカメの生態と将来の課題」   町田吉彦
                        

 6月4日に高知女子大の学生諸君を相手に、鏡川で実習を行った。鏡ダムはこれまでの雨で満水状態であった。途中で車を停め、高知市の水資源事情と、早 明浦ダムから鏡ダムへの導水管を説明した。
 高知女子大も高知大と同じく県外出身者が圧倒的に多い。野外から研究室に戻り、飼育中のアカメを紹介した。彼女らがアカメを間近に見るのは初めてである。私の任務の一端は、どこの大学生かを問わず、土佐の自然を少しでも理解してもらうことである。
 5月14日の日曜に、私どもの学科の学生が新堀川でアカメを釣った。というより、釣れてしまったとするのが正しいかも知れない。「アカメが釣れたけど、どうしましょう?」という彼らからの電話がそれを証明している。
 釣ったのは、兵庫県と大阪府出身の二人である。兵庫県出身の彼の姓は妙に引っ掛かっていた。私の高知大学時代の研究室の後輩と同姓である。「僕、Wの息子です。先生の事は父から聞いています」には驚いた。アカメに憧れて入学したのである。大阪府出身の学生は自然がない土地で育った。アカメを手にして
みたかったし、飼育もしたいとのことであった。このアカメが桂浜水族館に届けられたのは、本紙の報道の通りである。
 日本固有種であるアカメの二大生息地が宮崎県と高知県であることは論を俟たない。宮崎県は本年4月1日、指定希少野生動植物37種を公表した。これにアカメが含まれている。この条例には、指定種の捕獲、採取、殺傷、損傷ができず、また、所持、譲り渡し、譲り受けも禁止すると記してある。
 安芸市のアカメ研究家、長野博光さんによると、アカメ釣りで浦戸湾を訪れる県外の人が夏の間だけで近年は千人を超えるという。しかし、長野さんほどアカメ釣りに精通していても、当たるも八卦、当たらぬも八卦がアカメ釣りであるという。これがまた大魚、アカメの魅力なのだろう。
 最近の釣り人はアカメのキャッチ・アンド・リリースに抵抗がないようである。アカメとのやり取りを楽しみ、また、末長く釣りを楽しみたい人なら、この方法を選択しても不思議はない。釣った魚をその場で放流するこの方法が、資源の維持そのものである。
 アカメは高知県絶滅危惧IA類に指定されている。しかし一方で、小さい個体が1万、2万あるいはそれをはるかに超える値段でペットショップに並ぶ魚でもある。ここに垣間見えるのは、自然に親しむという姿勢ではなく、「銭になる魚」でしかない。銭になる動物が乱獲で絶滅した例はいくらでもある。
 小さなアカメの捕獲は比較的容易である。アカメの生態は謎だらけだが、小さな個体が内湾のコアマモ場に依存するのは、アカメに詳しい誰もが認めている。したがって、場所を定めれば大量の捕獲も可能である。だが、一網打尽ではアカメの将来はない。
 浦戸湾にはスズキよりアカメが多い場所があるという。彼らはともに魚食魚である。スズキを狙ったとしても、アカメが釣れるだろう。趣味は文化であり、人により生き甲斐となる。販売が目的でない釣りや、偶然釣れた魚も法で規制できるのだろうか? 
 アカメは土佐の自然のメッセンジャーである。私は、アカメの保育場となるコアマモ場の保全がアカメの将来にとって最重要課題と考える。当然、市民の協力が必要だが、基本的にはこれは行政の仕事となろう。これとアカメを尊重する釣り人の思惑が一致した時、従来にない自然との共生の姿が見えてくるに違いない。


(C) Y. Machida