公開日 2025年11月19日
10月18日(土)-19(日)、希望創発研究会(10月例会・対面)を実施し、県外企業人、高知県内企業人合せて11名、学生16名、その他関係者11名の計38名が参加しました。
今回は、各チームの研究テーマに向けた調査のために、高知県内各所(香美市、日高村、土佐市、四万十市、本山町、大豊町、仁淀川町、馬路村等)に赴きました。各チームの訪問レポートをご覧ください。
【チーム1】
チーム1は、「地域の未来に向けた希望と持続可能な社会の実現に向けた取り組みを探る」というテーマのもと、香美市の移住者や移住支援に関わる方々にインタビューを行いました。参加者には、過去の出来事や現在から未来への展望を「人生曲線」で描いていただき、それを軸にお話を伺いました。
まず、今年の春に高知に移住された山口さんファミリーからお話を伺いました。
山口さんは、幼少期の経験から高知への愛着を深め、「子どもを自然豊かな場所で育てたい」という思いを実現しました。「子どもたちには、さまざまな地域の文化に触れ、自然を体験してもらい、将来について意義を持って選択してほしい」と語る山口さんの言葉には、未来を担う子どもたちへの期待と希望が込められていました。
次に訪れたのは「NPO法人 いなかみ」で、代表の近藤さんとスタッフの日高さんにお話を伺いました。
近藤さんは、地方移住支援の現状を踏まえたユニークなアプローチ「さかさま不動産」を展開しています。彼は、「子育て中の移住者は周りに祖父母がいない環境で困ることがある」と気づき、ファミリーサポートセンターと連携した子育て支援を実施し、地域の魅力を知ってもらうための体験イベントも開催しています。「地域の人々と共に新しい価値を創り出すことが、持続可能な社会づくりに繋がる」と語る近藤さんの姿勢は、地域への愛情が感じられました。
日高さんは、農業に挑戦した際の苦労や家族との経験を語り、「いなかみライフ」に出会いキャリアを再出発したことを振り返りました。彼女は「顔見知りの多い地域の人とどんどん繋がっていけるのが面白い」と話し、人口減少についても「住みたくない人に住まわせるわけにはいかない。自分が楽しく暮らすことが大切」と笑顔で語る姿がとても印象的でした。

その後、物部にある「まきの宿」へ移動し、オーナーの小松さん、FIELD KOCHIの近藤さん、物部森林組合の溝渕さんの3人にインタビューを行いました。
小松さんは、学生時代から歴史や文化に深い興味を持ち、文化財保護と活用の業務に従事してきました。地域文化の魅力を伝えたいという思いから「まきの宿」を開業し、地域の持続可能な発展に向けた一歩を踏み出されています。
近藤さんは、高知へのUターン後、小さなお子さんを抱えながら様々な仕事を経験し、「土佐塩の道」の活動に出会ったことで「人生で初めてのやりがいを感じ、自分の居場所を見つけた」と語られていました。地域の魅力を高め、次世代に文化をつなぐ活動に情熱を注がれています。
溝渕さんは、東京での飲食業や岩手での被災地支援を経て、故郷高知の物部森林組合に入られました。「将来は高知に戻りたい」と思いつつも、故郷の廃れた姿を見て「喪失」が次のアクションの原動力になると感じたそうです。物部町の森林率95%を背景に、「人が減っていく中で、いかに楽しんでいくかが大切」と語り、同じ志を持つ人たちが地道な活動を続けることの重要性を語ってくださいました。
実際に現地に赴いて皆さんのご経験や活動のお話を伺い、地域の未来に向けた希望と持続可能な社会の実現に向けた取り組みが、参加者の熱意と共に確実に進んでいることを実感することができました。諦めるのではなく今を楽しむこと、中長期的な活動と模索し続けることの大切さ、地域に生きる人たちの力強さと可能性を感じることができました。

【チーム2】
チーム2は高知県日高村を訪問しました。1日目はNPO日高わのわ会で午前中に農作業を体験して、午後からわのわ会の安岡千春さん、一般社団法人nossonの小野加央里さん、BRAVE & BRAWのケルビー咲野さん、整体師の松島圭祐さんの4名から移住や起業やビジョンについてお話を伺いました。
農作業では、助け合って作業する必要性に気づき、段階的な作業それぞれに人を巻き込む工夫をして、関係人口を増やす仕組みがあることも知りました。ヒアリングでは、みなさんそれぞれが自分のやりたいことや目標・目的を明確に持っていて、そこに辿り着くために行動を積み重ねたからこそ、地域の人々を幸せにして課題解決に貢献できていると学びました。また、周りの人を巻き込んだり、一人でできないことを助け合ったりして、信頼関係を広げることも事業の達成には不可欠な重要な要素だと気づかされました。そして何より、自分のしたいことを全力で取り組んでいるみなさんはとても魅力的で、それが人生の豊かさにつながっているのではないかと感じました。みなさんとお会いしたことで、幸せや豊かさとは何か、温かい人との繋がりとは何かという問いについて、その答えがより深まると同時にさらに探求したいと思い、人生の目的意識を持つことが自分らしい人生を生きるうえで大切だと認識しました。
2日目はいの町に行き仁淀川でラフティングを体験しました。メンバー全員で力を合わせてボートを漕いでチームとしての団結力が強まりましたし、美しい景色を眺めながら冷たい水に飛び込んで、心も体も洗われて自然と一体化したような気持ちになれました。最後に、高知市内のVillageというイベントで出店されていたカゴノオトの小清水緑さんにインタビューさせていただきました。小清水さんも過去の経験からご自身の人生を見つめ、移住した四万十町で地元の農家の方を巻き込み、自分だけではできないことを人に依頼しながら、1年を通して旬なシュトーレンを作っているというエピソードを聞くことができました。

【チーム3】
我々は、高知県の宇佐土曜市、久礼大正町市場、四万十町および四万十市を訪れ、地域住民、教員、保護者を対象にインタビュー調査を実施した。目的は、地域の暮らしや仕事、教育、社会のあり方を多面的に捉え、地域が抱える課題と住民の価値観を明らかにすることである。
調査の結果、高知県では地域ごとに生活圏が明確に分かれており、特に東西間の交流が少ないことが確認された。買い物や通勤など日常の動線が固定化しているため、地域間の結びつきが弱まりやすい構造にある。しかし一方で、宇佐土曜市のような地域の交流拠点では、人とのつながりを楽しみに集う姿が見られ、地域に根づいたコミュニティの温かさが今なお維持されていた。
自然環境に関しては、多くの住民が気候変動の影響を実感しており、農作物の生育不良や獣害の増加が深刻化している。「年々暑くなった」「雨の降り方が変わった」といった声に象徴されるように、環境の変化は農業のみならず、地域の暮らし全体に影響を及ぼしていた。自然と共に生きる地域において、こうした変化への適応は今後の大きな課題である。
教育現場の調査では、小規模校における複式学級の実情が浮き彫りとなった。上級生が下級生の手本となる利点がある一方、教員の負担は大きく、教材研究や校務分担に十分な時間を確保しづらい状況が続いている。少子化や教員不足が進行する中で、学校と地域が協働し、教育を持続的に支える仕組みの構築が求められている。
また、保護者への聞き取りからは、子どもを一人の人格として尊重し、自立を促す教育観が共有されていることが明らかになった。地域全体で子どもを見守る文化が息づいており、学校外での多様な学びの機会が教育の質を高める鍵となると考えられる。
総じて、高知の人々は、困難な状況の中でも「今の暮らしを大切にしたい」と前向きに生きており、その姿勢に地域社会の強さと希望を見出すことができた。

【チーム4】
チーム4は10月18日(土)に高知県本山町の汗見川ふれあいの郷 清流館(集落活動センター汗見川)を訪問しました。現地では汗見川活性化推進委員会会長の山下様、同委員会地域づくり部会部会長の川村様にヒアリングしました。
ヒアリングでは、前身となる「汗見川を美しくする会」から50年以上の歴史がある汗見川地区の地域活動について話をうかがい、時代によって地域への思いは変わりながらも先のことを考えて活動されていたことや、住民の色々な思いをぶつけあって今に至ること、「安全・安心な地域とは?」など様々な話を聞くことができました。「出来る時に出来る人が出来ることを」というモットーや、「反対意見を持つ人も決して排除せず、何かあるときには声を掛ける」といった考え方がとても印象的でした。
汗見川地区でのヒアリングで刺激を受け、10月19日(日)午前に日高村の能津集落活動センターミライエを訪問しました。集落活動センター汗見川が2012年に県内初の集落活動センターとして開設されたのに対し、ミライエは2021年に開設された比較的新しいセンターです。アポイント無しの突撃訪問でしたが、当日勤務していた日高村役場の集落支援員の方からミライエ開設の背景、センターは目的通り機能しているか、能津地区の住民の現在、など様々な話を聞くことができました。

【チーム5】
チーム5では、豊富な森林を有する大豊町と馬路村の2つ地域を中心に訪問し、産業と生活・暮らしの二つの観点で比較ができないかと考え、合計6名の方にインタビューを実施しました。
現地での対話を通じ、事前調査や議論で想定していた内容と異なる実態が多く見えてきました。特に、同じテーマでも立場によって発言が異なることが印象的で、行政の関与やJA施策の仕組みは地域ごとに差がありました。また、雇用がなければ暮らしが成り立たず、人が消え、地域が荒廃するという現実に触れ、「記録したい」という強い思いを抱きました。
共通して浮かび上がったテーマは「人」と「関係性」です。地域課題は、ヒト・モノ・コトに多様な人が関わることで解決の糸口が見えると感じました。関係性が深まることで期待される利点は、(1)文化資源の再評価、(2)多様な視点で暮らしや産業が革新・ブランド化、(3)関係人口増による経済への好影響です。
インタビューからは、UターンやIターンのきっかけに「人とのつながり」や「風景への思い」があることが分かりました。一方で、課題としては、継続的に関わる人材不足、交通の制約、高齢化による担い手不足が挙げられます。地域人材と外部人材のWin-Winな関係構築が不可欠です。
今回の訪問を通じ、地域の未来を描くには「やれることはまだある」という前向きな姿勢と、関係性を軸にした持続可能な仕組みづくりが鍵であると再認識しました。私たちも外部視点を活かし、地域と共に新しい価値を創出する方向性を探っていきたいと考えています。

