研究紹介

上皮−間葉移行(EMT)とは

上皮−間葉移行(EMT)とは
担当:高石 樹郎

上皮性腫瘍の悪性化に伴い、上皮細胞の性質が減じて間葉細胞の性質を獲得することが知られている。この現象を上皮−間葉移行(Epithelial -mesenchymal transition, EMT)と呼ぶ。
EMTは腫瘍細胞の周囲組織への浸潤や遠隔組織への転移に関わる。一方で、間葉−上皮移行(Mesenchymal – epithelial transition, MET)はEMTとは逆の生物現象であるが、線維芽細胞から人工多能性幹細胞(iPS細胞)を作製する際にも観察される。我々は腫瘍細胞においてもiPS細胞作製のための遺伝子群を導入する事によりMETが誘導されて、腫瘍細胞の悪性度が減弱するのではないかと考えて実験的な検討を行った。
iPS細胞を作製するための、OCT4、SOX2、KlF4、MYC、LIN28の5種類の遺伝子を、EMTを経た有棘細胞癌株細胞に導入した。5種類の遺伝子を発現する細胞は、上皮細胞様の形態を呈し、また上皮マーカー遺伝子の発現も増加した。この細胞をヌードマウスに移植したところ、対照細胞と比較して、所属リンパ節への転移が減少した。同様の実験を悪性メラノーマ細胞に対しても行ったところ、メラノサイトマーカー遺伝子の発現が抑制され、転移能は著しく減じた。
これらの結果はMETの誘導が腫瘍細胞の悪性度を減弱させ得ることを示した。

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  • Transdifferentiation of Melanoma Cells by the Reprogramming Factors Attenuates Malignant Nature In Vitro and In Vivo. Takaishi M, Sano S. J Invest Dermatol. 2019 Jan;139(1):254-257. doi: 10.1016/j.jid.2018.06.179.
  • Mesenchymal to Epithelial Transition Induced by Reprogramming Factors Attenuates the Malignancy of Cancer Cells. Takaishi M, Tarutani M, Takeda J, Sano S. PLoS One. 2016 Jun 3;11(6):e0156904. doi: 10.1371/journal.pone.0156904.