糖鎖は、核酸、タンパク質に続く『第3の生命鎖』で、最も普遍的な翻訳後修飾なのでポストゲノム研究の最重要課題の1つです。糖鎖は『細胞の顔』とよばれるように細胞表面に存在し、細胞間コミュニケーションに重要な役割を果たします。 糖鎖は、微生物や海洋生物から哺乳動物にいたるまで全ての細胞がもち、様々な生命現象に横断的に関与します。このため、あらゆる分野の生命科学者が糖鎖を避けて通ることはできません。例えば、糖鎖は、病気の診断や再生の分子マーカーとして有用であり、新しい原理に基づく 治療法の開発のために重要です。このため、包括的な糖鎖生物学の知識をもった医師や研究者の育成と糖鎖解析技術を有する専門職業人の養成は、将来の医療に不可欠です。 糖鎖を積極的に活用するためには、糖鎖科学を従来の“解析し理解する科学”から“創造し制御する科学”へとパラダイムシフトさせなければなりません。有機化学、分析化学、海洋生物学、微生物学、バイオインフォマティクスなど他領域のノウハウを糖鎖生物学の知見と融合させることにより、革新的な科学技術を創出することが可能となります。 高知大学医学部では、科学技術振興機構による戦略的創造研究推進事業(CREST)で、細胞膜上の糖鎖機能に関する研究を推進してきていますが、プロジェクト研究では一過性であるため研究成果が根付かず、大学本来の使命である人材育成ができません。このため、学び拓くための拠点として『高知大学医学部附属システム糖鎖生物学教育研究センター(KSGC)』を開設しました。 センターでは、これまで高知大学で育成してきた人的財産や知的財産を基盤に、他分野と糖鎖生物学との融合研究を開始しています。センターは、他分野の研究者や学生が糖鎖研究を始めるための受け皿となり、高知大学の活性化や我が国の糖鎖研究のボトムアップに寄与したいと切望します。