医療施設・介護施設の皆様へ

 今回の事例で私どもが感じた反省点、改善点など、皆様の院内感染対策に少しでもお役に立てればと思い、ここに お知らせいたします。確定版ではありませんから、ご意見をいただいて修正したいと思います。介護施設の場合、 難しい面もあろうかと思いますが、目指すべきはここかと思います。

【ノロウィルスに限らず】
  • 食事の前、トイレの後、患者さんの排泄物の処理、オムツ交換などの後は石鹸と流水での手洗いを行う。
  • 1患者1手洗いを励行する。病室入室前の速乾性手指消毒剤の使用も忘れずに。
  • 手袋、エプロンは患者さん毎に交換する。
  • 手洗い後に使用するタオルは他人と共有することは論外。できればペーパータオルを使用するのが良い。また、使用後のペーパータオルのゴミ収集の際には乾燥した内容が空中に漂わないよう注意が必要である(清掃業者の指導)。
  • 嘔吐・下痢がある医療従事者は、感染管理者に連絡し、症状消失まで休暇をとる。
  • 感染対策の基本は全体への周知である。病棟の患者さんにもお知らせして協力をいただく。
  • 平成17年1月10日付けの厚生労働省の通知に基づき、ノロウィルス感染症の発生(疑わしい場合を含む)は、市町村保健福祉部局に連絡することが求められている。
  • 院内で単発の下痢症が発生した場合、その下痢が原疾患治療によるものか感染症によるものか見極めが難しいため、一刻も早くウィルス検査と疫学調査を実施する。また、感染対策は検査結果を待たず、下痢症の報告のあった時点から開始する。

【ノロウィルスに関連して】
  • 下痢患者さんの排泄物処理(オムツ交換、ポータブルトイレの処理など)の際には、手袋、エプロン、マスクを着用する。(基本的には接触感染予防策ではマスクは不要ですが、冬場のこの時期はノロウィルスを考えてマスクをつける)
  • マスクは鼻から顎までが隠れるようにフィットさせる。
  • マスクは必ずしも(空気感染防止用の)N95は必要なく、通常のサージカルマスクで良いという印象である(確証は見つけられていない)。
  • 患者さんは、個室隔離、無理な場合にはコホーティングをする。
  • (便中にはノロウィルスは約1ヶ月検出されるが)介助時にノロウィルス感染症患者さんからの感染の危険性が高いのは、症状消失から72時間までで、症状消失後72時間で隔離解除可能とされている(Infection Control 2006, 15: 582-586)。
  • 汚染したリネン、シーツからも感染する可能性がある。静かに丸めて、ビニール袋に入れる。袋には下痢等が分かるマークを使用し、袋から出したリネン、シーツをバサバサ振らない。
  • 消毒液は次亜塩素酸ナトリウムを推奨する向きが多い。アルコールは無効とされているが、70%アルコール1分間でノロウィルスの99%死滅するとの報告もある(Am J Infect Control 2006, 34: 31-35)。現時点ではアルコール(速乾性手指消毒薬を含む)の過信は禁物。
  • 吐物のついた食器は70℃以上の熱湯での消毒か、次亜塩素酸ナトリウムの消毒を行う。下膳前の次亜塩素酸ナトリウム使用も一法である。
  • ノロウィルスの検査は保健所に連絡して保健所が必要と判断した場合は、無料で行われる(行政検査)。一般的な外注業者の場合は1検体14,000円(プラス消費税)程度である。

【その他】
  • ノロウィルス下痢症発症後72時間程度は上記のような厳密な感染管理が必要ですが、それ以降は順次通常の体制にしていくことが可能であると考えられました。ただ、便には1ヶ月程度ウィルスが排泄されることもあり、手洗い等は引き続き厳しく管理する必要があります。この点では下痢症が回復して退院する患者さんも、ご家庭での用便後、食事前の手洗いは引き続き厳密に行うよう指導する必要があると考えられます。また、下着類の洗濯は家族の衣類洗濯の後にする、あるいは下痢が続く場合には洗濯前に塩素性消毒薬に一夜浸漬するなどの配慮が必要です。
  • 保育園、幼稚園児、学童がいる家庭はそれだけでノロウィルスの高い感染リスクを負うことになります。お子様にも帰宅後、石鹸流水での手洗いを行わせてください。また、園や学校で下痢症が流行しているような場合には、現在下痢ではなくても保菌の可能性と感染力があるものと考えてください。病院、介護施設入所者への園児、学童のお見舞いはご遠慮願うのが適当と考えられます。
         平成18年12月13日

高知大学医学部附属病院院内感染対策チーム  
                     病院長 倉本 秋  


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