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2004年度
日本魚類学会年会でのポスター発表(No. 116) 2004年9月25〜27日 琉球大学理学部
*このページの内容を,無断で引用・転載することを固くお断りします.
ハコフグ(フグ目ハコフグ科)は体の大部分が堅固な「甲羅」で覆われる.甲羅は情報感知の妨げにならないのか?本研究ではハコフグの側線系とそれを支配する側線神経を観察し,ベニカワムキ(フグ目ベニカワムキ科)とワキヤハタ(スズキ目ホタルジャコ科)と比較した.
図1.ハコフグ(上)と表在感丘のSEM画像(下)
ハコフグの側線系と側線神経
ハコフグの甲羅には表在感丘からなる側線系がある(図1,2A).鱗1枚あたりの感丘数は1−8である.
頭部側線系は眼上線(SOL),眼下線(IOL),前鰓蓋骨線(PRL),耳線(OTL),後耳線(POL),上側頭線(STL)を,体側側線系は体側線(TRL)と上体側線(DTL)を含む(図2A).これらは7本の側線神経枝[眼上神経枝(SOR),頬神経枝(BR),下顎神経枝(MDR),耳神経枝(OTR),側頭神経枝(SQR),上側頭神経枝(STR),体側神経枝(LR)]に支配されている(図2B,表1).頭部側線系の感丘数は106,体側側線系の感丘数は39である(表2).
図2.ハコフグの側線系(A)と神経支配(B)
矢印は違う側線の接続部,黒点は感丘を表す.以下同様
表1. 各側線を支配する側線神経枝
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ベニカワムキ |
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表2. 頭部(SOL-STL)および体側(TRL,DTL)側線系に存在する感丘数
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ベニカワムキ |
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ベニカワムキの側線系と側線神経
ベニカワムキの側線系は表在感丘からなる.5本の頭部側線系(SOL,IOL,PRL,OTL,STL)と1本の体側側線系(TRL)からなる(図3A).SQR(ハコフグではPOLを神経支配する)は無いかSTRと融合する(図2B,表1).頭部側線系の感丘数は91,体側側線系の感丘数は47(表2).鱗1枚当りの感丘数は1である.
ワキヤハタの側線系と側線神経
ワキヤハタの側線系は管器感丘からなる.7本の頭部側線系[SOL,IOL,PRL,下顎線(MDL),OTL,POL,STL)]と1本の体側側線系(TRL)からなる(図4A).MDLを支配する下顎内小枝(DMDR)があり,SQRは無いかSTRと融合する(図4B,表1).頭部側線系の感丘数は30,体側側線系の感丘数は59(表2).鱗1枚当りの感丘数は1である.
論 議
ハコフグの甲羅には8本の側線系がある.本種は明らかに機械的刺激を感知できる.ハコフグとベニカワムキの感丘数はほぼ等しい(表2).したがって,ハコフグにはベニカワムキと同等の感知能力があると考えられる.甲羅は「邪魔」ではない.
管器感丘の消失や表在感丘による代替は,止水域に生息する種や水底であまり動かないような種に多く見られる(例えばハゼ科のある種やアンコウ科魚類).また,ゆっくり泳ぐ種の側線系も表在感丘で占められる傾向にある.ハコフグとベニカワムキにおける表在神経のみの存在は両種のスローな運動と関係があると推測される.管器感丘およびMDLの消失はフグ目全体に共通する可能性が高い(ただし,現生種のみ).
ハコフグとベニカワムキの頭部側線系の感丘数は.それぞれ106と91であり,ワキヤハタのそれ(30)よりもはるかに多い.一般に硬骨魚では,管器感丘数は表在感丘数よりも少なく.両種はこの傾向と一致する.一方,体側側線系の感丘数は両種よりもワキヤハタの方が多い(表2).体節的な形質が感丘数の増減に関与している可能性がある(脊椎骨数はハコフグ,ベニカワムキおよびワキヤハタでそれぞれ18,20,25).
鱗1枚に対する感丘数はベニカワムキとワキヤハタでは1であるが,ハコフグでは1−8と変化に富む.感丘は骨や鱗の形態形成に影響をあたえるとされているが,ハコフグの「鱗」の形成においてはこの影響からフリーらしい.
(C) M. Nakae