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2001年7月
オニキホウボウGargariscus prionocephalus (Dumeril, 1869) (カサゴ目キホウボウ科)


 2000年4月7日に高知市御畳瀬(みませ)魚市場の大手繰り(沖合いの底曳き網,およそ水深200〜300m)でオニキホウボウ1個体が採集されました.本種はキホウボウ科の稀種で,南日本,東シナ海,南シナ海,アラフラ海の大陸棚から斜面上部にかけて分布しています.キホウボウ科の中でも,とくに頭部前方から側方にかけての骨質隆起がよく発達し,波上に張り出すことが大きな特徴です(腹面の写真).種名のうち,種小名の prionocephalus はギリシャ語のノコギリ (prion)と頭(kephale)の複合語をラテン語化したもので,頭部の骨質隆起の特徴を表しています.1936年に蒲原稔治博士が,御畳瀬魚市場で採集した2個体の標本に基づき,Peristedion undulatum Weber, 1913 の名前(本種のシノニム,後述)で,日本初記録種として報告しました*.これらの標本は残念ながら戦災で焼失したので,この写真個体は海洋生物学研究室に所蔵される土佐湾産の標本としては唯一のものです.

 シノニム(synonym) とは,同一の分類群(種や属など)に対して,いくつか存在する名称のことです.本種は,Dumeril (1869) により Peristethidion prionocephalus として初めて記載されました.その後,Weber (1913) もPeristedion undulatum として本種を記載しましたが,後の研究で両種が同一種であることがわかりました.この場合には,最初に有効な学名として発表されたものが使われます.また,本種は Smith (1917) により Peristhidion から Gargariscus へと属が変更されています.このような変更は,近縁種との形態的な差異の程度や系統類縁関係についての研究をもとに,分類研究者が対象として扱った種をこれまでとは別の属へ移したり,属を新たに設けることが妥当だと判断したためです.この場合には,その種の命名者をカッコ付きで表示する決まりです.

参考文献
Kamohara, T. 1936. A review of the peristedidioid fishes found in the waters of Japan. Annot. Zool. Japan., 15 (4): 436-445.

(遠藤広光)


(C) BSKU Laboratory of Marine Biology, Kochi University