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2001年8月
スミツキイタチウオ Neobythites unimaculatus Smith et Radcliffe, 1913(アシロ目アシロ科)

 本種はホロタイプのみに基づき,1913 年に Smith and Radcliffe により新種として記載されました.ホロタイプは北緯4度10 分,東経118 度39 分,水深およそ 560 mで採集されています.ホロタイプは現在,アメリカ合衆国スミソニアン研究所の国立自然史博物館に保管されています.本種はこれまでに,日本,フィリピン,ニューカレドニアから知られているにすぎません.
 アシロ類は鰭に棘がない,背びれ・尾びれ・臀びれが連続する,腹びれが体の前方にあることなどを特徴とします.アシロ類は一般に深海性で,底生生活をおくります.本種が属するシオイタチウオ属はアシロ科で最も大きな属*であり,世界の海から27種が報告されていますが,まだ未知の種がいるようです.

 本種は,1個の白い縁取りのある楕円形の黒くて大きな斑紋が背びれにあることで同属の他種と区別できます.高知市の御畳瀬魚市場では,本属のシオイタチウオとシマイタチウオは底曳き網の漁獲物として普通に採集できますが,スミツキイタチウオは数年に1個体採集できるかどうかの稀な種です.シオイタチウオは比較的浅い海底に棲み,シマイタチウオはこれより深所に生息しますが,スミツキイタチウオがさらに深い海底に生息しているのかどうかは今のところ明らかではありません.

 Kamohara は1938 年に,御畳瀬産の本種を新種 Neobythites nigromaculatus として発表しました.同時に新和名スミツキイタチウオを与えています.1997 年にデンマーク,コペンハーゲン大学のニールセン博士は,これまでに得られた日本,フィリピン,ニューカレドニアの標本のすべてを比較し,N. nigromaculatus N. unimaculatus が同一種であることを明らかにしました.したがって,本種の有効な学名は,先取権のある N. unimaculatus となります.

 1938 年当時は,諸外国の博物館の標本を借用し,比較検討することが困難な時代でした.航空機が発達した現在では,ほとんどの場合,自分が研究したい魚の標本を外国から借用することが可能です.このように,分類学の研究は世界的な規模で行われています.そこで,保管している標本のリストを公開することが研究機関の重要な仕事となります.また,この例でも分るように,90年も前に採集された標本が分類学の世界ではしっかりと“生きて”おり,90歳はまだまだ“若い”標本なのです.

*大きな属と小さな属:体が大きい,小さいという意味ではなく,含まれている種の数が多い,少ないという意味で使います.

参考文献
Kamohara, T. 1938. On the offshore bottom-fishes of Prov. Tosa, Shikoku, Japan. Maruzen, Tokyo, 86 pp.

Nielsen, J. G. 1997. Deepwater ophidiiform fishes from off New Caledonia with six new species. In B. Seret (ed.), Resultats des Campagnes MUSORSTOM, 16. Mem. natn. Hist. nat., 170: 1-33.

Radcliffe, L. 1913. Description of seven new genera and thirty-one new species of fishes of the families Brotulidae and Carapidae from the Philippines and the Dutch East Indies. Proc. U.S. Natl. Mus., 44: 135-176.

(町田吉彦)


(C) BSKU Laboratory of Marine Biology, Kochi University