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2003年 10月
キチヌ
Acanthopagrus latus (Houttuyn, 1782) (スズキ目タイ科)

 タイ科魚類は,大西洋,インド洋および太平洋に広く分布し,大陸棚上や沖合いの岩礁域,浅海から汽水(一部の種は淡水域に出現)に生息します.本科はマダイ亜科 (Pagrinae),キダイ亜科 (Denticinae) およびヘダイ亜科 (Sparinae)の3亜科に分類され,世界で29属約100種が知られています.このうち, 日本周辺には3亜科13種が分布します.

 日本産のヘダイ亜科魚類は,ヘダイ属のヘダイ Rhabdosargus sarba(注1)およびクロダイ属 Acanthopagrus のキチヌ,クロダイ A. schlegelii,ナンヨウチヌ A. berda,ミナミクロダイ A. sivicolus,オキナワキチヌ A. sp. (注2)の2属6種です.いずれの種も浅海域に生息し,内湾や河口域に出現しますが,後3種は奄美大島や沖縄周辺にのみ分布します(高知には前3種が分布).本亜科魚類は,体が銀灰色であるため,他の2亜科とは容易に区別できます.また,全ての種が雌雄両性の時期を経て,雌雄に分化することが知られています.キチヌは,その名前のとおり,腹鰭,臀鰭や尾鰭下葉の下半分が黄色味を帯びることや側線上の鱗の枚数が少ないことで, 他種と識別できます.本種は,四万十川では河口から約50km上流の西土佐村江川崎から長生(ながおい)付近まで遡上し,クロダイに比べ汽水域を好むようです.高知県内では「ヒレアカ」,「キビレ」や「シロヂヌ」などの地方名で呼ばれています.

注1:日本では Sparus sarba の学名が使われているが,日本以外では Rhabdosargus sarba が使われている.
注2: 沖縄周辺に分布する種は,以前にはオーストラリアキチヌ A. australis とされたが,最近の遺伝学的解析により別種と考えられている.

参考文献
赤崎正人.1997.タイ科.Sparidae. 岡村 収・尼岡邦夫(編),pp. 354-357,日本の海水魚,山と渓谷社,東京.
Carpenter, K.E. 2001. Sparidae. Pages 2990-3003 in K.E. Carpenter and V.H. Niem, eds. FAO species identification guide for fishery purposes. The living marine resources of the Western Central Pacific. Volum 5. Bony fishes part 3 (Menidae to Pomacentridae). FAO, Rome.
Hayashi, M. 2002. Sparidae. Pages 856-859, 1558-1559
in T. Nakabo, ed. Fishes of Japan with pictorial keys to the species, English edition.Tokai University, Press, Tokyo.
岡村 收.1996.四万十川水系の魚類.pp. 63-82,フィールドガイド四万十川,高知県文化環境部四万十川対策室,高知.

写真標本データ:BSKU 65978, 111 mm SL, 2003年9月9日,高知県高知市灘漁港で採集(浦戸湾内の刺し網漁),写真(黒バック)

(遠藤広光)


(C) BSKU Laboratory of Marine Biology, Kochi University