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2003年 12月
トンボイヌゴチ
Percis matsuii Matsubara, 1936 (カサゴ目トクビレ科 )

 トンボイヌゴチは,鹿児島県枕崎から千葉県銚子にかけての南日本の太平洋岸沖に分布し,大陸棚斜面上部の水深200〜500mの砂泥底に生息します.北方系のグループであるトクビレ科の中では,最も南に分布する種です(他の多くの種は,東北から北海道以北,オホーツク海やベーリング海に分布).土佐湾に出現する本科魚類はトンボイヌゴチのみで,高知市御畳瀬の大手繰り網やトロール網の調査で稀に採集されます.写真個体は腹部全体が丸く膨れており,卵を持っているようです.

 本種はおよそ体長20cmまで成長し,他のトクビレ科と同様に,体は細長く,鱗が変形した骨質板で覆われます.また,本種は第1背鰭には4〜5本の棘をもち,第2背鰭には5本の軟条をもつこと(同属のイヌゴチ P. japonicus では棘は5〜6本で軟条は6〜8本),口が頭部の前端に位置すること,吻にひげがないこと,眼が大きいことなどの特徴をもちます.

  日本の高名な魚類学者である松原喜代松博士(京都大学農学部舞鶴水産実験所)は,三重県尾鷲沖の水深およそ180〜360mで採集された4個体の標本を基に本種を記載しました(Matsubara, 1936).それらの標本は,当時愛知県豊橋の水産実験所の主任研究官であった松井佳一(よしいち)博士(後に近畿大学教授) から送られたものであり,松原博士は本種の種小名を松井博士に献名し matsuii としました.本種のタイプ標本は,金山 勉博士がトクビレ科の分類学的再検討を行った際に発見されなかったため(おそらく第二次世界大戦時に行方不明となった可能性が高い),1937年1月に尾鷲魚市場で採集された標本(FRSKU 4632,京都大学に所蔵) がネオタイプとして指定されました (Kanayama, 1991).

参考文献
Kanayama, T. 1991. Taxonomy and phylogeny of the family Agonidae (Pisces: Scorpaeniformes). Mem. Fac. Fish. Hokkaido Univ., 38(1/2): 1-199.
Matsubara, K. 1936. On the new species of fishes found in Japan. Annot. Zool. Japan., 15(3): 355-360, figs. 1-3.

写真標本データ:BSKU 67255, 137 mm SL. 2003年11月19日,高知市御畳瀬魚市場(大手繰),採集者:平松 亘,写真撮影:亀田和成.

(遠藤広光)


(C) BSKU Laboratory of Marine Biology, Kochi University