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2005年6月
クダゴンベ
Oxycirrhites typus Bleeker, 1857(スズキ目ゴンベ科)

 ゴンベ科魚類は熱帯から温帯浅海域の岩礁やサンゴ礁を中心に分布し,世界では9属約32種,日本では8属12種が報告されています.本科は背鰭棘部先端に1から数本の糸状皮弁をもつことが特徴です.長い胸鰭下部の軟条はよく肥厚し,岩や海底上で体をしっかりと支えることができます(水中写真).科の和名の「ゴンベ」は,背鰭棘条先端の糸状皮弁が,江戸時代に子供の後頭部に剃り残された1束の毛「権兵衛」を連想させることから名付けられたようです(荒俣ほか,2004).また,本科の英名であるホークフィッシュ(Hawkfishes)は,猛禽類のタカのように岩の高い位置に陣取って周囲を注意深く見回し,素早く泳ぎ出す行動に由来するようです.
 クダゴンベは日本周辺では相模湾以南から琉球列島,アフリカ東岸から東部太平洋のカルフォルニア沖までのインド・太平洋海域に広く分布します.本種は体高が低く,吻が管状に長く伸び,体側には鮮やかな赤色の網目模様があることで,他種との識別は容易です.本科の中には体長が55cmに達する種もいますが,本種は最大でも約10 cm 程度にしかなりません.水深10〜50mの岩礁域に棲み,群生する刺胞動物のヤギ類やウミトサカ類の間を活発に遊泳します.
 ゴンベ科魚類は雌性先熟の性転換を行うことが知られています.日本の沿岸で普通にみられるオキゴンベは,両性生殖腺をもった大小2尾のペアが岩礁上で多く観察され,卵巣部が大きい個体がメスとして,精巣部が大きい個体がオスとして繁殖行動を行います.しかし,本種が機能的な性転換を行っているかどうかは明らかになっていません.本科魚類の主食は,甲殻類やウニ類などで,大型種ではクモヒトデ類や小型魚類を食べる例も知られています.クダゴンベはその口の形態から判るように,底生性の小型甲殻類を好んで食べます.
 ゴンベ科には体色が鮮やかな種が多く,観賞魚として飼育されることもあります.本種はスクーバダイビングでも人気があり,水中でぜひ一度会ってみたい魚です.しかし,ダイバーが近づくとヤギの奥へ隠れてじっと身をひそめてしまいます.

参考文献
荒賀忠一.1984.ゴンベ科.益田一・尼岡邦夫・荒賀忠一・上野輝彌・吉野哲夫(編).pp. 193-194, 日本産魚類大図鑑.東海大学出版会,東京.
荒俣 宏・さとう俊・荒俣幸男.2004.磯採集ガイドブック.阪急コミュニケーションズ,東京,253 pp.
Hayashi, M. 2002. Cirrhitidae. Pages 909-912, in T. Nakabo, ed. Fishes of Japan with pictorial keys to the species. English edition. Tokai University Press, Tokyo.
松浦啓一.2004.ゴンベ科.Cirrhitidae. 岡村 収・尼岡邦夫(編),pp. 426-431,日本の海水魚 第3版,山と渓谷社,東京.
Nelson, J. S. 1994. Fishes of the world. 3rd ed. John Wiley & Sons, Inc., New York. pp. 600.

写真標本データ:BSKU 55045, 83 mm SL, 2001年7月11日,高知県宿毛市沖ノ島久保浦水深39mで採集,採集者&写真撮影:遠藤広光.

(片山英里)


(C) BSKU Laboratory of Marine Biology, Kochi University