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2005年8月
シマウミヘビ
Myrichthys colubrinus (Boddaert, 1781)(ウナギ目ウミヘビ科)頭部の写真はこちら

 ウミヘビ科のゴイシウミヘビ属(genus Myrichthys)は,世界の熱帯浅海域を中心に分布し,現在9種が知られています(McCosker and Rosenblatt, 1993)*.日本では,シマウミヘビの他に,モヨウモンガラドウシ M. maculosus (Cuvier, 1816)とゴイシウミヘビ(アキウミヘビ)M. aki Tanaka, 1917(モヨウモンガラドウシのシノニム)が分布するとされています(Hatooka, 2002)*.本属は,背鰭が鰓孔よりもはるか前方の頭部上から始まり,体には多数の円形斑や帯状の模様をもつので,他属との識別は比較的容易です.

 シマウミヘビは明色(白色から乳白色)の体に25〜35本の黒褐色の環状斑をもち,円形斑を多数もつ他種とは明瞭に異なります.本種はアフリカ東岸から紅海,ハワイ諸島,南太平洋(ニューカレドニア,フィジーやポリネシア)までのインド-太平洋熱帯域に広く分布しており(McCosker and Rosenblatt, 1993; Randall, 2005),日本では琉球列島と高知県の柏島と沖ノ島で生息が確認されています(平田ほか,1996;浅野,2004).しかし,日本での分布の北限にあたる高知県では観察や水中写真が撮影されたのみで,これまでに標本は採集されていませんでした.写真個体は,水深約10mの岩礁域と砂地の境で索餌中のところを採捕しました.水中ではこの縞模様が大変目立ち,一見すると爬虫類のウミヘビ類のようでした.実際に,本種の白黒の縞模様は爬虫類のコブラ科ウミヘビ亜科の猛毒をもつ種に対するベーツ型擬態と考えられています(McCosker and Rosenblatt, 1993).つまり,無害なシマウミヘビは,明瞭な警告色をもつ有害な爬虫類のウミヘビに似ることで,捕食者を欺くわけです.実はこの捕食者とは,擬態の対象である爬虫類のウミヘビ亜科(とくにHydrophis 属)の種(日本ではクロガシラウミヘビやマダラウミヘビ,クロボシウミヘビ) で,この仲間はアナゴ科やウミヘビ科など穴に潜んでいる細長い魚類を引きずり出して食べることが知られています.爬虫類のウミヘビ類が他の爬虫類のウミヘビ類を捕食する例は知られていないので,縞をもつ爬虫類のウミヘビに似ることは,おそらくシマウミヘビが生き残るためにかなり有利に働くのでしょう.

*McCosker and Rosenblatt (1993)はゴイシウミヘビ Myrihthys aki Tanaka, 1917 をモヨウモンガラドウシ M. maculosus (Cuvier, 1816) のジュニア・シノニムと見なしました.一方,Hatooka (2002) はゴイシウミヘビを有効種として扱っています.Hatooka (2002) は両種の識別形質として,体側の暗色斑の列数の違いを挙げました(前種は5列,後種は3〜4列).ゴイシウミヘビが有効種であれば,本属は10種を含むことになりますが,本属各種の模様の地域変異や成長による変異を考えるとシノニムである可能性が高いようです.例えば,シマウミヘビの縞模様には様々な変異が見られるため,これまでに多くの学名が付けられてきました.しかし,McCosker and Rosenblatt (1993) は本属の多くの標本を調査した結果,10種を本種のジュニア・シノニムとしています.

参考文献
浅野博利.2004ウミヘビ科.Ophichthidae. 岡村 収・尼岡邦夫(編),pp. 81-84,日本の海水魚 第3版,山と渓谷社,東京.
Hatooka, K. 2002. Ophichthidae. Pages 215-225, 1456-1459 in T. Nakabo, ed. Fishes of Japan with pictorial keys to the species, English edition. Tokai University Press, Tokyo.
平田智法・山川 武・岩田明久・真鍋三郎・平松 亘・大西信弘.1996高知県柏島の魚類相.行動と生態に関する記述を中心として.Bull. Mar. Sci. Fish., Kochi Univ., 16: 1-177.
McCosker, J. E. and R. H. Rosenblatt. 1993. A revision of the snake eel genus Myrichthys (Anguilliformes: Ophichthidae) with the description of a new eastern Pacific species. Proc. Cal. Acad. Sci., 48 (8): 153-169, 10 figs., 3 tables.
Randall, J. E. 2005. Reef and shore fishes of the South Pacific. New Caledonia to Tahiti and the Pitcairn islands. University of Hawai'i Press, Honolulu. pp.707.


写真標本データ:
BSKU 75482, 805 mm TL, 2005年7月16日,高知県宿毛市沖ノ島,水深10m,標本採集:遠藤広光,写真撮影:三宅崇智.

(遠藤広光)


(C) BSKU Laboratory of Marine Biology, Kochi University