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2005年9月
ヤセアマダイ
Malacanthus brevirostris Guichenot, 1848(スズキ目キツネアマダイ科)

 ヤセアマダイは,1848年にフランス人のナチュラリストAlphonse Guichenotによってインド洋のマダガスカル島産の標本をもとに,新種として記載されました.本種は,水深50m以浅のサンゴ礁や岩礁周辺の砂礫底に生息し,ペルシャ湾を除くインド-西部太平洋域の亜熱帯から熱帯水域(紅海,南アフリカ沿岸からハワイ諸島までの北緯および南緯32度の間)に広く分布しています. 本種は海底に穴を掘って棲み,多毛類や甲殻類などの底生性の動物を主食とします.また,海底上をペアまたは複数で遊泳する姿が観察されます.本種の主鰓 蓋骨棘はよく発達し,吻が短く丸いこと,尾鰭に2本の黒色線が走ることなどにより,本科の他種と容易に識別できます.生時の体色は,全体に白く,背 側にやや黄色味を帯びた多数の縞模様があります.

 キツネアマダイ科魚類は,日本からは2属6種が報告されています.いずれの種も,細長い体型で,前上顎骨後方に大きな犬歯と主鰓蓋骨に1本の棘をもち ます.主鰓蓋骨の棘の大きさは属の識別形質であり,キツネアマダイ属では顕著で後方に突出し,サンゴアマダイ属では短く薄板状となります.本科魚類のうち,サンゴアマダイ属の種は,とくに色彩が美しいためダイバーに人気があります.また,観賞用として,アクアリストにも人気の高い魚です.

 Dooley (1978) は,分類および系統学的研究によりキツネアマダイ科とアマダイ科(3属を含む)の近縁性とそれぞれの単系統性を示唆しました.その後,Johnson (1984)は,個体発生初期に鼻骨が癒合する特徴を両科の単系統性を支持する形質として挙げています.最近 Imamura (2000) は,本科をセミホウボウ科(Dactylopteridae) の側系統群として位置づけ,本科のキツネアマダイ属をナミアマダイ属 (Caulolatilus)と,サンゴアマダイ属(Hoplolatilus) をセミホウボウ科とそれぞれ姉妹群関係にあると推測しました.また,Imamura は従来のキツネアマダイ科とセミホウボウ科の単系統性を支持する8個の共有派生形質を挙げています.キツネアマダイ科の稚魚は,吻端や前鰓蓋骨,後頭部に発達した棘をもち,一見するとセミホウボウ科に似ているため,この系統仮説も案外正しいのかもしれません.

参考文献
Aizawa, M. 2002. Malacanthidae. Pages 784-785, 1545 in T. Nakabo, ed. Fishes of Japan with pictorial keys to the species, English edition. Tokai University Press.
Bauchot, M.-L., J. Daget, and R. Bauchot. 1997. Ichthyology in France at the beginning of the 19th century: the Histoire Naturelle des Poissons of Cuvier (1769-1832) and Valenciennes (1794-1865). Pages 27-80 in T. W. Pietsch and W. D. Anderson, Jr., eds. Collection building in Ichthyology and Herpetology. Special Publcation Number 3, American Society of Ichthyologists and Herpetologists.
Dooley, J.K. 1978. Systematics and biology of the tilefishes (Perciformes: Branchiostegidae and Malacanthidae), with descriptions of two new species. NOAA Tech. Rep. NMFS Circular 411: 1-1-78.
Imamura, H. 2000. An alternative hypothesis on the phylogenetic position of the family Dactylopteridae (Pisces: Teleostei), with a proposed new classification. Ichthyol. Res., 47 (3): 203-222.
Johnson, G. D. 1984. Percoidei: develoment and relationships. Pages464-498 in H. G. Moser et al., eds. Ontogeny and systematics of fishes. Based on an international symposium dedicated to the memory of Elbert Halvor Ahlstrom. Special Publcation Number 1, American Society of Ichthyologists and Herpetologists.
益田 一・ジェラルド R. アレン. 1987. 世界の海水魚. 山と渓谷社,東京.528 pp.
望月賢二.2004.キツネアマダイ科.pp. 308-309 in 岡村 収・尼岡邦夫,編.日本の海水魚 第3版,山と渓谷社,東京.

写真標本データBSKU 75490, ca. 32 cm SL,2005年7月16日,高知県宿毛市沖ノ島,釣り,標本採集:石川大輔,写真撮影:三宅崇智.
水中写真:高知県大月町柏島後ろの浜,水深8m(撮影:遠藤広光).

(石川大輔・遠藤広光)


(C) BSKU Laboratory of Marine Biology, Kochi University