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2006年3月
ミスジオクメウオ
Barathronus maculatus Shcherbachev, 1976(アシロ目ソコオクメウオ科)

*眼は退化し,皮下に埋没しています.生鮮時には網膜?が透けて見えるので,光を感じることはできるのかもしれません.

ソコオクメウオ科(Family Aphyonidae) はアシロ目フサイタチウオ亜目に属する小型の深海底生性魚類(最大でも25cm程度)で,現在6属22種を含みます(Nielsen et al., 1999).本科は胎生で,雄は交接器をもち,その形態はアシロ目の中でも極めて幼形進化的です(Nielsen, 1969).眼は著しく退化的かまたは消失し,半透明でゼラチン質の柔らかい体には鱗がなく,皮膚は遊離しています.また,背鰭,尾鰭と臀鰭は連続し,2属では腹鰭が消失しています. 本科の採集例は極めて少なく,一般にはほとんど知られていないグループかもしれません.
 9種を含むオクメウオ属(Barathronus) は,世界の熱帯から亜熱帯を中心に分布し,標本は水深229〜5,005 m と広い範囲から採集されています.日本近海では,1906年にアメリカ合衆国の調査船アルバトロス号が相模湾の水深 386-430 m で1個体の標本をトロール網により採集し,Nielsen (1969) はこの標本を未同定の"Barathronus specimen" として報告しました.この標本とその後沖縄舟状海盆調査で採集されたBarathronus sp. (Machida, 1984) は B. maculatus と同定され,ミスジオクメウオの和名が付けられています(Nielsen and Machida, 1985).本種は南アフリカ沖で採集された1個体の標本に基づき,ロシア人の魚類学者 Yu. N. Shcherbachev により1976年に新種として記載され,Nielsen and Machida (1985)の論文が出版された時点では,世界で5個体の標本が知られるのみでした.その後,水産研究所の調査船こたか丸のトロール網により,土佐湾中央部の水深約700〜800 m から写真個体を含め3個体の標本が相次いで採集されています(Shinohara et al., 2001).しかし,日本周辺から本科他種の記録はありません.本種の記録は南アフリカの東岸沖と南日本沖の2つの海域に限られており,その分布や生態は不明です.

参考文献
Nielsen J.G. 1969. Systematics and biology of the Aphionidae (Pisces, Ophidioidea). Garathea Rep., 10: 7-88.
Nielsen J.G. and Y. Machida. 1985.
Notes on Barathronus maculatus (Aphyonidae) with two records from off Japan. Japan. J. Ichthyol., 32: 1-5.
Nielsen, J.G., D.M. Cohen, D.M. Markle and C.R. Robins. 1999. FAO species catalogue. Volume 18. Ophidiiform fishes of the world (Order Ophidiiformes). An annotated and illustrated catalogue of pearlfishes, cusk-eels, brotulas and other ophidiiform fishes known to date. FAO Fisheries Synopsis. No. 125, Vol. 18, FAO, Rome. 178 pp, 136 figs.
Machida, Y. 1984. Aphyonidae. Pages 266-267, 375 in O. Okamura and T. Kitajima, eds. Fishes of the Okinawa Trough and the adjacent waters. I. Japan. Fish. Resourse Concervation Ass., Tokyo.
Shinohara, G., H. Endo, K. Matsuura, Y. Machida and H. Honda. 2001. Annotated checklist of the deepwater fishes from Tosa Bay, Japan. In Fujita, T., H. Saito and M. Takeda (eds.), Deep-sea fauna and pollutants in Tosa Bay. Natn. Sci. Mus. Monogr., Tokyo, 20: 283-343.

写真標本データBSKU 86066, 114 mm SL, 雌,土佐湾中央部,水深 763-803 m,こたか丸,オッタートロール網,1999年3月2日.
土佐湾で採集された他の標本:
BSKU 44781, 145 mm SL, 雌,土佐湾中央部,水深約 700 m,こたか丸,オッタートロール網,1988年5月24日;BSKU 47732, 147 mm SL, 雄,土佐湾中央部水深 759-804 m,こたか丸,オッタートロール網,1990年4月25日.

(遠藤広光)

土佐湾で採集されたミスジオクメウオの標本写真

上からBSKU 86066 (114 mm SL), 44781 (145 mm SL), 47732 (147 mm SL) .


眼は退化し,皮下に完全に埋没し,前鋤骨と下顎には犬歯状歯が数本あります.


 雄にはりっぱな交接器があり,その形態は同属他種と異なります.


 雌はもちろん交接器をもちません.


(C) BSKU Laboratory of Marine Biology, Kochi University