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2006年5月
セトウシノシタ
Pseudaesopia japonica (Bleeker, 1860) (カレイ目ササウシノシタ科)

 ササウシノシタ科 (Family Soleidae) は,熱帯から温帯水域の沿岸から大陸棚上の砂泥底に生息する小型のカレイ目魚類で,世界で35属約130種が知られています* (Nelson, 2006).カレイ目の中では,本科はダルマガレイ科(12属約140種を含む)に次ぐ種数を含む大きなグループです.日本周辺には11属17種が分布し,セトウシノシタは日本産の種の中ではもっとも北に出現し,函館から東シナ海まで水深100 m 前後の大陸棚上に広く分布します(Nakabo, 2002).日本産の本科魚類のうち,茶色と黄色の細かな縞模様をもつ種は,本種を含め,サザナミウシノシタ Soleichthys heterorhinos,ツノウシノシタ Aesopia cornuta,シマウシノシタ Zebrias zebrinus,オビウシノシタ Z. fasciatus の計5種がいます.このように目立った模様には何か意味があるのでしょうか?熱帯水域にすむサザナミウシノシタ属(genus Soleichthys) の中には,黒い体と背鰭と臀鰭,それに尾鰭に非常に目立つオレンジ色の縁取りをもつ種がいます(Randall, 2005).これは同じような体色をもつヒラムシ類の一種 (Pseudoceros periaurantias) への擬態と考えられています.このようなヒラムシ類の警戒色は,食べると不味い,あるいは毒をもっていますよという信号で,擬態者はその体色に似せることで捕食を避けられるという利点があります.さらに,本科魚類の泳ぎ方は,海底上をすべるように移動するヒラムシ類に似ており,この擬態をより効果的に見せることでしょう.本種のような縞模様も何か他の動物に擬態しているのか,今のところ定かではありません.また,本科の中には,ミナミウシノシタ Pardachirus pavoninus のように,背鰭と臀鰭,そして腹鰭の鰭条の基部から猛毒を含む粘液を分泌する種もいます.本科魚類は他のカレイ類と同様に底質に潜って隠れることはもちろんですが,擬態したり,毒を分泌したりと特殊な種を含むグループです.

*ササウシノシタ科のうち,1種のみがアフリカの淡水域に生息します.

参考文献
Nakabo, T. 2002. Soleidae. Pages 1383-1387, 1629-1630 in T. Nakabo, ed. Fishes of Japan with pictorial keys to the species. English edition. Tokai University Press, Tokyo.
Nelson, J.S. 2006. Fishes of the world. 4th edition. John Wiley & Sons, Inc., New York. pp. 600.
Randall, J. E. 2005. A review of mimicry in marine fisnes. Zool. Stud., 44(3): 299-328.

写真標本データ:BSKU 75113, 122 mm SL, 2005年6月14日, 土佐湾中央部,水深役120 m,調査船こたか丸採集

(遠藤広光)


(C) BSKU Laboratory of Marine Biology, Kochi University