今月の魚リストへ戻る


2006年8月
ナメハダカ
Lestidium prolixum Harry, 1953 (ヒメ目ハダカエソ科)

 ハダカエソ科(Family Paralepididae) は,13属約56種を含む中深層性のグループで,日本周辺からは10属21種が知られています.本科魚類の体型は,口が大きく体が細長い点で,スズキ目のカマス科魚類にやや似ています.そのためでしょうか,本科の英名は“barracudina”です.ご存じの通り“barracuda”はカマス科の英名であり,カマス科の大型種のオニカマス (Sphyraena barracuda) に由来したものです.しかし,ヒメ目に属するハダカエソ科は,スズキ目のカマス科とは系統的に遠く離れ,同じく中深層性のデメエソ科やヤリエソ科,ミズウオ科と近縁だと考えられています.
 日本産のハダカエソ科のうち,ナメハダカ属 (Lestidium) とハダカエソ属 (Lestrolepis) は,頭部から腹鰭までの腹中線上に,それぞれ1本と2本の長い発光器をもつことが特徴です(フタスジナメハダカ Lestrolepis intermedia写真はこちら).また,ナメハダカは最大で全長約30cmに達し,体は半透明で,脂鰭をもちます.本種は北西大平洋の固有種で,南日本の太平洋岸沖(駿河湾以南)から沖縄舟状海盆にかけて分布し,水深およそ200〜600mで採集されています.
 ナメハダカは,日本の著明な魚類学者である松原喜代松博士が,熊野灘で採集した6個体の標本に基づき,Lepstidium nudum Gilbert, 1905 (新称:ナメハダカ)として1938年の論文で初めて報告しました.その後,フィラデルフィアの自然史博物館の研究者であった Robert R. Harry 博士は,Matsubara (1938) の L. nudum が未記載種であることに気がつき,1953年に2個体の標本に基づき新種として記載しています.本種のホロタイプ(スタンフォード大学 [SU] に保管)は,松原喜代松博士により1937年に熊野灘沖で採集された標本のうちの1つが寄贈されたもので,パラタイプはハゼ類の分類で著明な富山一郎博士(東京大学)が1930年に鹿児島沖で採集したものです(東京大学総合博物館に保管).なお,L. nudum の基産地はハワイ諸島近海で,日本周辺からは記録されていないようです.

参考文献
Harry, R.R. 1953. Studies on the bathypelagic fishes of the family Paralepididae (order Iniomi). 2. A revision of the North Pacific species. Proc. Acad. Nat. Sci. Phila., 105: 169-230.
Matsubara, K. 1938. Studies on deep-sea fishes of Japan. VII. On some rare or imperfectly known lantern-fishes found in Kumano-nada. J. Imper. Fish. Inst., 33(1): 52-60.
Nelson, J.S. 2006. Fishes of the world, 4th edn. Wiley, New York

写真標本データ
BSKU 73855,232 mm SL,2004年12月1日,高知市御畳瀬魚市場,大手繰網
BSKU 73856,ca.15 cm SL,2004年11月30日,高知市御畳瀬魚市場,大手繰網

(遠藤広光)


(C) BSKU Laboratory of Marine Biology, Kochi University