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2006年10月
リュウキュウヤライイシモチ
Cheilodipterus macrodon (Lacepede, 1802) (スズキ目テンジクダイ科)

 テンジクダイ科は,2亜科23属約273種を含む大きなグループで,熱帯から温帯水域にかけて分布し,おもにサンゴ礁や浅海の岩礁域に生息します.本科魚類はいずれも小型で,体長はおよそ5〜15cm前後です.多くの種では,繁殖期に雌が産み出した卵塊を雄が口の中へ入れて,ふ化まで保護する習性(口内保育)をもつことが知られています.ヤライイシモチ属(genus Cheilodipterus) は,インド-太平洋域に分布する15種を含み,体型はやや細長く,両顎に犬歯状歯を備え,上主上顎骨や櫛鱗をもつこと,背鰭鰭条数(IV-I, 9)などの特徴で他の属と識別できます.南日本には,スダレヤライイシモチ (C. artus),カスミヤライイシモチ(C. sublatus),ヤライイシモチ (C. quinquelineatus),そしてリュウキュウヤライイシモチの4種が分布し,前2種ではそれぞれ沖縄と奄美諸島が,後2種はそれぞれ和歌山県と千葉県が北限です.和名に「琉球」を冠していますが,南日本の太平洋岸ではリュウキュウヤライイシモチがもっとも北まで出現します.

 リュウキュウヤライイシモチは,本属では最大の種で(おそらく本科でも最大),標準体長20cmに達します.大きな犬歯状の歯,頭と体側に並ぶ8本の細い縦縞*,尾鰭の上下に入る暗色線をもつことが特徴です.体の縞模様は成長により変化し,幼魚では交互に太い縞と細い縞が並びます.また,幼魚期には尾柄部に大きな黒色斑があり,その後成長にともない消失します.テンジクダイ科の縞模様や斑紋は,属や属内のグループにより,縦や横の縞,斑紋などいくつかのパターンが見られ,いずれも種の認識に役立つと考えられています.また,体の模様と系統類縁関係は,最近テンジクダイ属(genus Apogon) について,分子系統学的解析をもとに詳しく調べられました.この結果によると,やはり模様と系統には関連性がありそうで,これまで骨格などの特徴により設けられた亜属がいくつかの系統を含む可能性も指摘されています.ヤライイシモチ属の種は,すべて縦縞をもつこと(その数は1本から十数本と様々ですが)や形態学的な特徴から,おそらく単系統群(共通の祖先から進化したグループ)と考えてよいかもしれません.

*魚類の縞は,体を垂直に立てた場合の縦横を見るので,本種では「縦縞」で,例えばイシダイでは「横縞」となります.

参考文献
Gon, O. 1993. Revision of the cardinalfish genus Cheilodipterus (Perciformes: Apogonidae), with description of five new species. Indo-Pacific Fishes, (22): 1-59.
Mabuchi, K., N. Okuda and M. Nishida. 2006. Molecular phylogeny and stripe pattern evolution in the cardinalfish genus Apogon. Mol. Phylogen. Evol., 38: 90-99.
Nelson, J.S. 2006. Fishes of the world, 4th edn. Wiley, New York
奥田 昇.2001.口内保育魚テンジクダイ類の雄による子育てと子殺し.Pages 153-194 in 桑村哲生・狩野堅司,編.魚類の社会行動1.海游舎,東京.

写真標本データ
BSKU 75470,136 mm SL ,2005年7月16日,高知県宿毛市沖ノ島久保浦の水深8m,採集者:遠藤広光

(遠藤広光)


(C) BSKU Laboratory of Marine Biology, Kochi University