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2006年11月
コノシロ
Konosirus punctatus (Temmink et Schlegel, 1846) (ニシン目ニシン科)
 コノシロは全長25cmに達するニシン科コノシロ属の唯一の種で,南シナ海北部の中国や台湾から朝鮮半島の沿岸,新潟および宮城県以南の日本沿岸域まで分布する北西太平洋の固有種です.本種は沿岸から内湾にかけて生息し,春の産卵期には汽水域に集まり,夜間に産卵します.コノシロの腹部縁辺には,稜鱗(りょうりん)と呼ばれる発達した鱗が並び,背鰭最後の鰭条は伸長します.また,体側から腹部にかけて銀白色で,背側には黒色点列が並び,鰓蓋の後方には黒色斑紋があることも特徴です.これらの特徴は,日本産のニシン科のうち,ドロクイ属 Nematalosa の2種,ドロクイ N. japonica Regan, 1917 とリュウキュウドロクイ N. come (Richardson, 1846)と共通します.しかし,コノシロは上顎後方の形が直線的で,背鰭前方の正中線上で左右の鱗が重ならないことで,これら2種と識別できます.

 出世魚であるコノシロは成長にともない地方名が,「 シンコ(新子)」,「 コハダ(小肌)」,「ナカズミ」,「コノシロ」と4回変わります.このうち, 若魚の「シンコ」や「コハダ」は“ひかりもの”の寿司ネタとしてよく知られています. 最近では漁獲量の減少から,とくに初物の「シンコ」(生後4ヶ月程度,梅雨明け時期)は相当な高値で取り引きされます.コノシロの旬は秋から冬で,成長したナカズミやコノシロは寿司ネタにはならず,正月用の粟漬けになるそうです.秋祭りの食材とされたことや旬の時期から,漢字の“このしろ”には魚偏に「祭」や「冬」が使われています.

*高知県のドロクイの解説(町田吉彦)は高知県文教協会ホームページの「土佐の自然」ギャラリー第2集にあります.

参考文献
Aonuma, Y. 2002. Clupeidae. Pages 243-247, 1463 in T. Nakabo, ed. Fishes of Japan with pictorial keys to the species. English edition. Tokai University Press, Tokyo.
Nelson, J.S. 2006. Fishes of the world, 4th edn. Wiley, New York.
Whitehead, P.J.P. 1985. FAO species catalog. Clupeoid fishes of the world (suborder Clupeoidei). Part 1 - Chirocentridae, Clupeidae and Pristigasteridae. FAO Fish. Synop. No. 125, v. 7 (pt 1): i-x + 1-303.

写真標本データ
BSKU 74319,203 mm SL ,2005年4月8日,高知県幡多郡黒潮町入野漁港

(遠藤広光)


(C) BSKU Laboratory of Marine Biology, Kochi University