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2006年12月
キマダラハゼ
Astrabe flavimaculata Akihito et Meguro, 1988 (スズキ目ハゼ科)

 シロクラハゼ属(genus Astrabe)は,全長5〜6cmの日本固有のハゼ科魚類で,シロクラハゼ A. lacticella Jordan and Snyder, 1901, キマダラハゼ A. flavimaculata Akihito et Meguro, 1988, シマシロクラハゼ A. fasciata Akihito et Meguro, 1988の3種を含みます (Akihito et al., 2002).本属は頭部が縦扁し,顔つきはややセジロハゼ属やミミズハゼ属に類似しますが,体はやや短く側扁し,写真のように茶褐色の地色に特徴的な白色や淡黄色の斑紋をもつことで,本科の他属と容易に識別できます.本属は九州と本州の中部から北部に分布し,沿岸浅所の転石帯や岩礁性海岸のタイドプールに生息します(瀬能ほか,2004).本属の採集例は少なく,シロクラハゼは宮城県,千葉県天津小湊,三浦半島三崎,伊豆半島,三重県志摩半島和具から,キマダラハゼは伊豆大島,相模湾,伊豆半島,鹿児島馬毛島,種子島から,そしてシマシロクラハゼは長崎県南部,兵庫県香住,新潟県佐渡島,青森県竜飛岬からそれぞれ標本あるいは水中写真により記録されています (Akihito and Meguro, 1988; 鈴木・宇野, 1992; Akihito et al., 2002; 瀬能ほか, 2004).

 2006年9月に土佐市横浪半島先端部に位置する白の鼻のタイドプール(潮下帯の水深1.5 m)から,キマダラハゼを1個体採集しました.キマダラハゼは,眼上皮弁の後端が突出せず(他の2種では明瞭に突出する),体の斑紋が淡黄色で(他の2種では白色),項部の横帯の幅が狭い(シロクラハゼでは広い)ことで本属の他種と識別可能です(瀬能ほか,2004).本標本の特徴は,これらの識別形質によく一致しました.また,本種は斑紋の変異の幅が広く,本標本には胸鰭や背鰭に小斑点がほとんどありません.さらに,第2背鰭起部の横帯は腹中線に達しない個体も知られています(本標本ではホロタイプと一致する).

 これまでに四国沿岸からのシロクラハゼ属成魚の記録ありませんが,道津・塩垣 (1971)は須崎沖で行われたシラスのパッチ網漁の漁獲物中から本属の仔稚魚 13 個体(全長 6.7~12.0 mm)を発見し,長崎県野母崎産および鹿児島馬毛島産の標本とともにシロクラハゼとして報告しました.しかし,須崎産の標本はいずれも状態が悪いことから,この論文中では図示されませんでした.その後,Akihito and Meguro (1988) は道津・塩垣 (1971)が扱った標本のうち,調査できた鹿児島産の5個体をキマダラハゼと同定しました.須崎産の仔稚魚標本については,Akihito and Meguro (1988)は言及せず(所在不明であったのか?),どの種であるかは不明です.いずれにせよ,本標本はキマダラハゼの四国初記録であり,伊豆周辺と鹿児島県種子島周辺の分布のギャップを埋める記録となります.

参考文献
Akihito, Prince and K. Meguro. 1988. Two new species of goby of the genus Astrabe from Japan. Japan. J. Ichthyol., 34: 409-420.
Akihito, K. Sakamoto, Y. Ikeda and K. Sugiyama. 2002. Gobioidei. Pages 1139-1310, 1595-1619 in T. Nakabo, ed. Fishes of Japan with pictorial keys to the species, English edition. Tokai University Press, Tokyo.
道津喜衛・塩垣 優. 1971. シロクラハゼの仔,稚魚および若魚.魚類学雑誌, 18: 182-186.
瀬能 宏・鈴木寿之・渋川浩一・矢野維幾. 2004. 決定版 日本のハゼ.平凡社,東京. 536pp.
鈴木寿之・宇野政美. 1992. 山陰但馬で採集・確認された魚類の日本海初記録種および稀種.伊豆海洋公園通信, 3(10): 2-5.

写真標本データ
BSKU 79563,32 mm SL ,2006年9月11日,高知県土佐市宇佐横浪半島白の鼻タイドプール,採集者:遠藤広光,写真撮影:岡本沙知

(遠藤広光)


(C) BSKU Laboratory of Marine Biology, Kochi University