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2007年2月
イロカエルアンコウ
Antennarius pictus (Shaw et Nodder, 1794) (アンコウ目カエルアンコウ科)

 日本魚類学会は,2007年2月1日付けで「差別的語を含む標準和名の改名とお願い」という提案を行いました(日本魚類学会ホームページを参照).これはメクラ,オシ,バカ,テナシ,アシナシ,セムシ,イザリ,セッパリ,そしてミツクチの9つの差別的語を含む魚類の標準和名やそれらの高位分類群の名称について,今後は改名した名前を使用しましょうというものです.もちろん,学名は変更ありません.学会内の出版物に関して,これらの改名の使用には,ある程度拘束力が発生します(例えば,和名の論議上で,旧和名を使うことは可能ですが,それ以外での使用は認められない).しかし,世間一般には拘束力はないので,これらの改名の使用をあくまで推奨するということです.今回対象となった和名は,1綱2目および亜目5科および亜科11属32種を含む51タクサ(分類単位)に渡り,そのうち最も変更の多いグループは「イザリウオ」類です.「イザリウオ」の和名には,「躄魚」や「漁り魚」あるいは土佐弁の「座り魚」の漢字が当てられた歴史があり,差別用語の「躄(いざり)」が最も使われていました(富戸の波イザリウオの釣竿1〜できるかな2までを参照).そのため,「イザリウオ」に関しては英語名の “frogfish”に因んだ「カエルアンコウ」への改称が提案されました.これにより,今月の魚である「イロイザリウオ」は「イロカエルアンコウ」へ,その所属はアンコウ目カエルアンコウ亜目カエルアンコウ科となります.5文字の「イザリウオ」から7文字の「カエルアンコウ」への変更は,語呂の悪さが少々気にかかりますが,学会内で様々な検討が行われた結果です.美しく,語呂がよく,かつその生き物の特徴をよく表した和名を付けることは,実際には大変難しく,日本初記録で標準和名のない魚類に新和名を付ける際には,いつも頭を悩ませます.

 カエルアンコウ科(Family Antennariidae)には世界で12属42種が知られ,その半数以上の25種はカエルアンコウ属(Genus Antennarius) です(Nelson, 2006).日本に分布する本科は2属15種で,ハナオコゼ(Histrio histrio)を除く残り14種はすべてカエルアンコウ属に属しています(Senou, 2002).Pietsch and Grobecker (1987)は,カエルアンコウ属を便宜的に6種群に分類し,イロカエルアンコウは本種の学名を冠した Antennarius pictus group に含まれます(5種を含み,日本には他にオオモンカエルアンコウ A. commersoni とクマドリカエルアンコウ A. maculatus が分布する).アンコウ類の釣竿は背鰭第1棘が吻上へ移動して変形したもので,A. pictus group は他の種群に比べこの釣竿が背鰭第2棘の約2倍と長く,第2棘後縁の鰭膜が発達し,背鰭や臀鰭,尾鰭に多数の斑紋があるなどの特徴をもちます.

参考文献
Nelson, J.S. 2006. Fishes of the world, 4th edn. Wiley, New York. 601pp.
Pietsch, T.W. and D. B. Grobecker. 1987. Frogfishes of the world: systematics, zoogeography, and behavioral ecology. Stanford Univ. Press, Stanford, xxxii+420 pp., 56 pls.
Senou, H. 2002. Antennariidae. Pages 454-458, 1494-1495 in T. Nakabo, ed. Fishes of Japan with pictorial keys to the species, English edition. Tokai University Press, Tokyo.

日本魚類学会:差別的語を含む標準和名の改名とお願い(2007年2月1日)

写真標本データ
BSKU 71987,123 mm SL,2004年7月19日,高知県宿毛市沖ノ島母島港横,水深14 m,採集者:遠藤広光
水中写真データ:高知県宿毛市ビロウ島,撮影者:遠藤広光

(遠藤広光)


(C) BSKU Laboratory of Marine Biology, Kochi University