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2007年10月
ドンコOdontobutis obscura (Temminck et Schlegel, 1845) (スズキ目ドンコ科)

 この写真の標本は高知大学構内の水路で採集されました.ちなみに,生まれも育ちも朝倉の私は,子供の頃に大学の水路でドンコを捕獲した記憶があります.本種は非常に動きが鈍く,網で簡単に捕まえることができました.ドンコはスズキ目ハゼ亜目ドンコ科に属し,世界では5属15種が知られ(Nelson,2006),日本にはドンコ(O. obscura)とイシドンコ(O. hikimius)の2種のみが分布します。
 淡水性のハゼ類は,稚魚期を海で過ごす種もいますが,ドンコは孵化後すぐに着底し底生生活をします。本種は頭が大きく,縦扁し,腹鰭が完全に分離することなどで同属のイシドンコを除く日本産ハゼ亜目の他種と区別できます(イシドンコは頭がより縦扁し,雄の生殖突起が黒い,胸鰭基底の2黒色斑は上部のものが明瞭であることで異なる).ドンコは夜行性のハンターで,生きた動物しか食べません。
 ドンコは5〜7月の産卵期になると,ふだん隠れがにしている大きな礫や倒木,テトラポッド下面などの隙間に口や鰭で産卵室をつくります.そこでかなり大きな音量でグーグーと鳴くそうです。この発音行動は,雌を誘っているのか,なわばりを主張しているのかは定かではありません。
 2002年にドンコの一地域個体群とされていたイシドンコが新種記載されました.さらに,ドンコには地理的および遺伝的に分化した4つの地域個体群(山陰・琵琶・伊勢,東瀬戸,西瀬戸,西九州)が知られています.今後,これらのグループから,新たな新種が記載されるかもしれません。

参考文献
岩田明久.2001.ドンコ.日本の淡水魚,改訂版.山と渓谷社,東京.pp.558-560.
Nelson, J.S. 2006. Fishes of the world. 4th ed. John Wiley & Sons, Inc., New York. 601 pp.
瀬能 宏・鈴木寿之・渋川浩一・矢野維幾.2004.決定版 日本のハゼ.平凡社,東京.536pp.

写真標本データ
BSKU 91315, 102.6 mm SL, 2007年8月17日,高知大学内水路,手網採集,写真撮影:中山直英

(山中 憂)


(C) BSKU Laboratory of Marine Biology, Kochi University