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2007年12月
イトヨリダイ Nemipterus virgatus (Houtuyn, 1782) (スズキ目イトヨリダイ科)
 イトヨリダイの特徴はもちろんその美しい姿です.紅色の背と白銀色の腹に鮮やかな黄色の縦縞が6本走っています.深く二叉した尾鰭上葉の軟条は金色の糸のように長く伸びています.また,鰓蓋の上端に濃い赤の斑点が3〜4個1列に並んでいるのも特徴です.
 イトヨリダイの名前の由来は,体色の赤黄色の縦縞の黄色が泳いでいる時にきらめくように見えて金糸を撚るようだからという説と,糸のように長く伸びた尾鰭の軟条が泳ぐ時に旋回するように見えるからだという説とがあります.鯛はもちろん「あやかりダイ」ですが,これは後で付いたようで,昔は単にイトヨリと呼んでいたようです.漢字は「糸撚魚」,「糸綟魚」,「糸縒魚」,「金線魚」,「金糸魚」,「紅古魚」などと書きます。高知県では一般にイトヨリとよばれ,須崎では 糸魚(ヤマメ)またはヤモメ(「ヤマ」は土佐の方言で「糸,麻糸」こと,「メ」は魚名語尾です).英名はGolden thread(金の糸),中国語は金綫魚です.

 金の糸 身にちりばめて 金線魚(きんせんぎょ)   名和隆志

 イトヨリダイは琉球列島を除く本州中部以南から,東シナ海や台湾,ベトナム,フィリピン,北西オーストラリアまで分布します.水深70〜200mまでの砂泥地を好み,主に徳島,福岡,長崎,山口,島根などで漁獲されます.
 市場への入荷量は少ないが,晩秋から冬が旬の安定高値の高級魚で,蒸し物がおすすめです.甘味が強く,皮目に独特の風味があり,これをポン酢などで食べます.湯引きして,刺身にしたものもなかなかの逸品.皮目の美しさ,上品な旨味から寿司ネタとしても素晴らしい.スペイン料理のエスカベッシュなど洋風な料理にも合います.

 糸撚鯛の 煮るには惜しき はなの彩     東  百代

 イトヨリダイ属にはソコイトヨリ,モモイトヨリ,シャムイトヨリ,トンキンイトヨリなど少なくとも8種が日本から知られていますが,イトヨリダイとソコイトヨリ以外は琉球列島以南に分布しています.イトヨリダイに最も似ているのはソコイトヨリです.体側の縦縞が,イトヨリの6〜8本に対し3本で,腹側の黄味が強く,高知県ではキイトヨリなどとよばれています.味はイトヨリダイより落ちるようです.

参考文献
藍澤正宏.2000.イトヨリダイ科.Page 847-855 in 中坊徹次編.日本産魚類検索全種の同定,第2版.東海大学出版,東京.
岡林正十郎.1986.高知の魚名集.350pp.西村謄写堂,高知.
蒲原稔治.1950.土佐及び紀州の魚類.366 pp.高知県文教協会,高知.
Russell, B. C. 1990. FAO species catalogue. Vol. 12. Nempipterid fishes of the world. FAO fisheries Synopsis, No.125、vol.12. v+149pp.
山田梅芳・時村宗春・堀川博史・中坊徹次.2007.東シナ海・黄海の魚類誌.lxxiii+1263pp.東海大学出版会,東京.

写真標本データ
BSKU 92386,173.6 mm SL,2007年11月21日,高知市御畳瀬大手操(幸成丸),採集・写真撮影:中山直英

(山川 武)


(C) BSKU Laboratory of Marine Biology, Kochi University