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2008年4月

スジモヨウフグ Arothron manilensis (Marion de Proce, 1822)(フグ目フグ科)

 フグ目フグ科は世界で約130種,日本では51種が確認され,多彩な本目において日本で最も多く見られる科です(Nakabo,2000; Nelson,2006).熱帯地方や亜熱帯地方,大西洋からインド洋,太平洋と世界中の海や汽水域,淡水域に分布します.またフグ科の魚類は,体長が最大で90cmになるものから10cmに達しないものまでと大きさもさまざまです.
 スジモヨウフグはモヨウフグ属の,体長が最大で45cmになる中型の魚です.西部太平洋域と分布は広く,特に水深30m以浅で砂泥底である場所を好み,河口部などの汽水域にも生息しています.とりわけ土佐湾沿岸では河口でよく見られます.この種の特徴として体は全体的に黒っぽく,頭部から尾鰭の付け根にかけて,一番の特徴である褐色縦線が多数走ります.目の直前にある鼻腔の皮弁は二つに分かれ,大きくよく目立ちます.
 また,フグのイラストはおちょぼ口で描かれることが多いですが,その口の中には歯が癒合した歯板と呼ばれるものが,上顎と下顎にそれぞれ二枚ずつあります.顎を突出させることができないので,この二枚の歯板で,おちょぼ口からは想像できないような音をたてながら,餌を少しずつ噛みちぎって摂食を行います.
 食用として有名なトラフグに比べると,丸く愛らしい体型をしており,そのせいか日本の海で採集できる海水産のフグとして,ペット雑誌でも取り上げられることがあります.元来フグは飼育する場合,気性が荒いため混泳には向かないと言われます.しかし,このスジモヨウフグはフグの中でも比較的おとなしい種のために,特にその他フグ目魚類との同居には向かないものと思われます.と言うのも,他のサザナミフグやクサフグなどにいじめられる姿が,当研究室でも多数目撃されているからです.また暖かい海を好むため,水槽の水温が低いと元気がなくなるというように,意外と繊細な一面も持つ可愛らしいフグです.飼育していて大きく成長し,自宅で飼育できなくなったときは,元々いた海に戻してあげてください.

参考文献
Nelson, J. S. 2006. Fishes of the world, 4th edn. Wiley, New York. 456pp.
中坊徹次.2000.フグ科.Page 103,1418-1431, 1641 in 中坊徹次編.日本産魚類検索全種の同定,第2版.東海大学出版,東京.
松浦啓一.1997.スジモヨウフグ,フグ科. 岡村 収・尼岡邦夫(編),pp. 706-707,日本の海水魚,山と渓谷社,東京.

写真標本データ
BSKU 88935, 55.3 mm SL, 2006年11月10日,高知県蛎瀬川,採集・写真撮影:伊佐正樹

(太田真由加)


(C) BSKU Laboratory of Marine Biology, Kochi University