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2008年5月

ヒメヒイラギ Equulites elongatus (Gunther, 1874)(スズキ目ヒイラギ科)

 ヒイラギ科魚類はインドミ西太平洋に広く分布し,世界で3属約30種が知られています.そのうち日本には13種が分布し,高知県ではニロギと呼ばれ,おもに食用とされています.
 ヒイラギ科はこれまで,コバンヒイラギ属Gazza,ヒイラギ属Leiognothus [木村ほか(2008)に従い,以降,旧ヒイラギ属とする],ウケグチヒイラギ属Secutor の3属からなるとされていました(Nelson, 2006).このうちコバンヒイラギ属とウケグチヒイラギ属の分類学的整理はほぼ終了しています.しかし,旧ヒイラギ属は多数の種や,形態的な類似種群を含んでいるため,分類学的な整理が進められています (Kimura et al., 2003, 2005, 2008).本属は研究者によって属の認識が異なり,Fowler (1904, 1918) は旧ヒイラギ属内に3亜属を設立しました.その後,この3亜属を独立の属として認める研究者もいましたが,有効属として認められず,近年まで上記3属のみとされていました(木村ほか,2008).
 最近の分類学的研究の結果,旧ヒイラギ属Leiognathus は5属に分けられ (木村ほか,2008),ヒイラギ科は7属となりました.また,Kimura et al. (2008) はNuchequula の再検討を行い,属の和名の由来であるヒイラギ Leiognathus nuchalisがこの属ではなくNuchequula に含まれるとしました.そのため,ヒイラギの学名はNuchequula nuchalis となりました.つまり,ヒイラギはヒイラギ属には含まれず,別の属に含まれることになってしまいました.その混乱を避けるため,木村ほか(2008)は日本産種を含む4属の新和名を提唱し,ヒイラギ属を新定義しました(日本産のヒイラギ科各属の標準和名を参照).もともと,ヒイラギやヒメヒイラギが含まれていたLeiognathus はセイタカヒイラギ属と命名されました.
 また,これまでに出版された図鑑などでは,ヒメヒイラギの学名はLeiognathus elongates とされています.本種は旧ヒイラギ属Leiognathusに含められていましたが,こうした見直しによってヒメヒイラギはイトヒキヒイラギ属Equulitesとされ,学名はEquulites elongatesとなりますこのように,よく知られる一般的な魚でも,分類学的な見直しをすることによって,学名の変更や命名が行われることがあります.

参考文献
Kimura, S., P.V. Dunlap, T. Peristiwady and C.R. Lavilla-Pitogo. 2003. The Leiognathus aureus complex (Perciformes: Leiognathidae) with the description of a new species. Ichthyol. Res. 50:221-231.
Kimura, S., T. Ito, T. Peristiwady, Y. Iwatsuki, T. Yoshino and P.V. Dunlap. 2005. The Leiognathus splendens complex (Perciformes: Leiognathidae) with the description of a new species, Leiognathus kupanensis Kimura and Peristiwady. Ichthyol. Res. 52:275-291.
Kimura, S., H. Motomura and Y. Iwatsuki. 2008. Equulites Fowler 1904, a senior synonym of Photoplagios Sparks, Dunlap, and Smith 2005 (Perciformes: Leiognathidae). Ichthyol. Res., 53: 204-205.
木村清志・木村良子・池島 耕・本村浩之・岩槻幸雄・吉野哲夫.2008.ヒイラギ科魚類各属の標準和名.魚類学雑誌,55(1): 62-63.
Nelson, J. S. 2006. Fishes of the world, 4th edn. Wiley, New York. 456pp.

写真標本データ
BSKU 93455, 50 mm SL, 2008年1月15日,土佐湾中央部,水深約 200 m,中央水産研究所調査船こたか丸,採集・写真撮影:中山直英

(片山英里)


(C) BSKU Laboratory of Marine Biology, Kochi University