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2011年4月の魚

タイワンコロザメ Squatina formosa Shen et Ting, 1972(カスザメ目カスザメ科)
頭部腹面尾部の写真)

 カスザメ属(genus Squatina)は,最大で2メートルに達する底生性のサメ類で,大西洋,インド洋南部,そして太平洋の熱帯・亜熱帯水域に分布し,沿岸から大陸棚斜面上部にかけて生息します(Nelson, 2006).カスザメ目カスザメ科に含まれる唯一のグループで,現在世界から18種が知られています(Last and White, 2008).本属は本属は頭と体は扁平で幅広く,胸鰭と腹鰭も大きく,全体的にやや菱形をしています.一方,尾部はやや長く,断面が丸いので,サメとエイの中間的な体型に見えます.普段はこの扁平な体で砂地に潜んでおり,餌となる魚類が頭の上を通り過ぎる瞬間に頭を持ち上げて丸呑みにします.本属魚類の英名は“Angel shark”ですが,その名前には似つかわしくない摂餌行動といえるでしょう.
 日本周辺にはカスザメ S. japonica (Bleeker, 1858),コロザメ S. nebulosa (Regan, 1906)とタイワンコロザメ S. formosa Shen and Ting, 1972 の3種が分布しています(Kriwet et al., 2010).北西太平洋域には,これら3種と S. tergocellatoides (Chen, 1963) [南シナ海から台湾]の4種が分布し,Walsh and Ebert (2008)により分類的に再検討されています.カスザメとS. tergocellatoides は,腹鰭先端が第1背鰭の基底に達しないことで,他の2種と異なります.また,カスザメは体の背側正中線上に棘列をもちますが,他の3種にはありません.一方,コロザメとタイワンコロザメは特徴がよく似ており,これまでも混同されてきました.とくに日本産の本属は,背側に棘列をもつカスザメともたないコロザメの2種とされてきたため,疑いもなくタイワンコロザメも“コロザメ”に同定されていました.2008年にドイツ・ベルリンにあるフンボルト大学の大学院生であったStelbrinkさんにコロザメの分子解析用サンプルを頼まれて(Stelbrink et al., 2010),土佐湾のコロザメと思って送ったものが台湾周辺でのみ記録のある別種 S. formosa と判明して大変驚きました.そのような経緯から,Stelbrinkさんと彼の先生であったKriwetさんと共著で日本初記録の論文を出しました(Kriwet et al., 2010).種小名の“formosa”は台湾を意味するので,この論文の中で“タイワンコロザメ”という新標準和名を提唱しています.
 Walsh and Ebert (2008)によると,コロザメとタイワンコロザメは,上唇付近の形,背鰭や尾鰭の形(コロザメでは縁辺が角張っているが,タイワンコロザメでは丸みを帯びる)や腰骨間の幅に違いがあります.また,タイワンコロザメは2つの背鰭下方の体側に大きな円形の褐色斑紋もちますが,コロザメでは小斑点であり,あまり目立ちません.さらに,タイワンコロザメではコロザメに比べて,体の背面で左右対称に位置する小白色斑点はよく目立ちます.Walsh and Ebert (2008)はこれらの斑紋や斑点を両種の識別形質としていないので,成長や個体による変異について,もう少し調べる必要がありそうです.また,両種の日本沿岸における分布も,標本に基づいて調べ直さなければなりません.

参考文献
Kriwet, J., H. Endo and B. Stelbrink. 2010. On the occurence of the Tiwan angel shark, Squatina formosa Shen & Ting, 1972 (Chondrichthyes, Squatinidae) from Japan. Zoosyst. Evol., 86(1): 117–124.

Last, P. R. and W. T. White. 2008. Three new angel sharks (Chondrichthyes: Squatinidae) from the Indo-Australian region. Zootaxa, 1734: 1–26.

Nelson, J. S. 2006. Fishes of the world. 4h ed. Hoboken, New Jersey. 601pp.

Stelbrink, B., T. von Rintelen, G. Cliff and J. Kriwet. 2010. Molecular systematics and global phylogeography of angel sharks (genus Squatina). Molecular Phylogenetics and Evolution, 54: 395–404.

Walsh, J. and D. A. Ebert. 2007. A review of the systematics of western North Pacific angel sharks, genus Squatina, with redescriptions of Squatina formosa, S. japonica, and S. nebulosa (Chondrichthyes: Squatiniformes, Squatinidae). Zootaxa, 1551: 31–47.

標本写真データ
BSKU 95231,546 mm TL,2008年6月16日,土佐湾中央部 水深約200 m,中央水産研究所調査船こたか丸,オッタートロール,採集:中山直英,写真撮影: 遠藤広光.
BSKU29904, 1077 mm TL, 1979年11月4日,沖縄舟状海盆,水深300–330m.

(遠藤広光)


(C) BSKU Laboratory of Marine Biology, Kochi University