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2011年6月の魚

ワモンウシノシタ Brachirus annularis Fowler, 1934(カレイ目ササウシノシタ科)

 ササウシノシタ科のワモンウシノシタは,1993年3月に土佐湾中央部での豊旗丸のトロール調査で採集された1標本に基づいて,日本初記録として報告されました(Gonzales et al., 1994).本種は日本では土佐湾のみで記録され,国外では台湾,フィリピン(基産地),そしてオーストラリアに分布しています.土佐湾で最初の標本が採集された翌年の3月と昨年の4月には,高知市の御畳瀬魚市場(いずれも幸成丸の大手繰り網)で,それぞれ1個体が採集されています.有眼側の体の縁辺から大きく広がる斑紋は,頭部と尾部,その間に2対の合計6つあることが本種の特徴ですが,土佐湾産の3標本を比較すると,焦げ茶色の縁取りのある大小の輪状斑の形には個体変異が見られます.

 ワモンウシノシタの学名の種小名"annularis"は「環状の,輪状の」という意味で,和名「ワモン」と同様にその特徴的な有眼側の模様に因んでいます.本種は Brachirus 属として Fowler (1934)により記載され,その後 ミナミシマウシノシタ属(Synaptura )へ移されていました(中坊,2000).Desoutter et al. (2001)はササウシノシタ科の3属BrachirusSynaptura ,そして Euryglossa についての有効性を検討し,Brachirus を有効属として,Synaptura はそのシノニム(異名)と判断しました.Swainson (1839)は Brachirus をササウシノシタ科の新属とした論文の中で,綴りが1文字違いのフサカサゴ科の新亜属 Brachyrus も設立しています.しかし,論文中の記載以外の部分で,フサカサゴ科の Brachyrus とすべきところを,"Brachirus" と綴り間違いをしたことから,Brachyrus のホモニム(同名)との見解もあり,無効と見なされていました.属階級群名については,ひと文字違いは別の名前とみなされ,ササウシノシタ科内の属名との検討からも有効な属とされています(中坊,2000; Nakabo, 2002).

 Gonzales et al. (1994)の第1著者のBenjamin J. Gonzalesさんはフィリピンからの留学生で,私たちの研究室でネズッポ科魚類の生態学的研究を行い,1994年3月に修士の学位を取得しています.ワモンウシノシタが豊旗丸で採集された時には,乗船していたかもしれません.

参考文献
Desoutter, M., T.A. Munroe and F. Chapleau. 2001. Nomenclatural status of Brachirus Swainson, Synaptura Cantor and Euryglossa Kaup (Soleidae, Pleuronectiformes). Ichthyol. Res., 48(3): 325–327.

Fowler, H.W. 1934. Descriptions of new fishes obtained 1907 to 1910, chiefly in the Philippine Islands and adjacent seas. Proc. Acad. Nat. Sci. Philad., 85: 233-367.

Gonzales, B.J., O. Okamura, K. Nakamura and H. Miyahara. 1994. New record of the annular sole, Synaptura annularis (Soleidae, Pleuronectiformes) from Japan. Japan. J. Ichthyol., 40(4): 491–494.

中坊徹次.2000.ササウシノシタ科.pp.1383-1387, 1638-1639.中坊徹次,編.日本産魚類検索 全種の同定.第2版.東海大学出版会,東京.

Nakabo, T. 2002. Soleidae. pp. 1383-1387, 1629-1630. T. Nakabo, ed. Fishes of Japan with pictorial keys to the species, English edition. Tokai University Press, Tokyo.

*本種は2009年11月に三重県尾鷲市でも採集されています【三日に一魚の尾鷲市役所のページ】.

写真標本データ:BSKU 102894, 155 mm SL,2010年4月11日 土佐湾,高知市御畳瀬魚市場大手繰り網,幸成丸,採集・写真撮影:土居美月
他の標本:BSKU 81384, 122 mm SL, 土佐湾中央部,水深151–154m,豊旗丸,ビームトロール,1993年3月5日(Gonzales et al., 1994で報告); BSKU 81717, 113 mm SL, 土佐湾中央部,水深約180m,高知市御畳瀬魚市場、幸成丸,1994年3月16日.

(遠藤広光)


(C) BSKU Laboratory of Marine Biology, Kochi University