今月の魚リストへ戻る


2012年6月の魚


エソダマシAulopus damasi Tanaka, 1915 (ヒメ目ヒメ科)

 エソダマシを含む日本産のヒメ属魚類には4種が知られ,背鰭軟条数が14,側線鱗数が35-37であること,さらに吻長が眼径よりも長いという3つの分類形質で他の3種と明瞭に区別することができます.また,オスでは第2背鰭軟条が伸長しない特徴をもちます.本種の生息水深はおよそ 250-500 mで,これまで伊豆沖,高知沖,沖縄近海および東シナ海での記録があり,2011年11月20日に鹿児島県では初めて南さつま市坊津沖で本種が1 個体採集されました.この記録から,エソダマシは日本では伊豆沖から沖縄県にかけて連続的に広く分布することが予想されます.

 エソダマシは高知市上町出身で日本の魚類分類学の父と呼ばれる田中茂穂博士(東京帝国大学教授)により,相模湾で採集されたホロタイプのみに基づいて記載されました.しかし,現在の東京大学総合博物館に保存されているはずのホロタイプは,近年行われたタイプ標本の調査により所在不明とされています(Eschmeyer, 1998).

 エソダマシの属名について,日本人の研究者は Aulopus Cloquet, 1816 を使用しています.しかし, Hime Starks, 1924 を有効な属とする海外の研究者もいます(Eschmeyer, 1998).この見解の相違は,Parin and Kotlyar (1989) が遺伝的な解析結果から,それまで Aulopus 1属にまとめられていた種を2属に分類し,大西洋産の種を Aulopus に,インド洋−太平洋産の種を Hime に含めたためです.今回,御畳瀬漁協の幸成丸が沖合底びき網(大手繰り網)で漁獲した標本を頂きました.市場ではそれほど珍しい種とは思わなかったのですが,調べてみると情報の少ない稀種とわかりました.

参考文献
Parin, N. V. and A. N. Kotlyar. 1989. A new aulopodid species, Hime microps, from the eastern South Pacific, with comments on geographic variation of H. japonica. Japan. J. Ichthyol., 35(4): 407–413.

畑 晴陵・伊東正英・本村浩之.2012.鹿児島県から得られたヒメ科エソダマシAulopus damasi の記録.Nature of Kagoshima, 38: 9–11.

中坊徹次.2000.ヒメ科.中坊徹次 (編), pp. 349, 1485. 日本産魚類検索 全種の同定 第二版.東海大学出版会,東京.

写真標本:BSKU 106639,215.5 mm SL,高知市御畳瀬魚市場(大手繰り網),採集:弘田恭平,和田甚平,大橋洋介,2012年3月15日,写真撮影:和田甚平.

(和田甚平)


(C) BSKU Laboratory of Marine Biology, Kochi University