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2012年7月の魚


シマセトダイ Hapalogenys kishinouyei Smith et Pope, 1906(スズキ目イサキ科)

 シマセトダイはスズキ目イサキ科ヒゲダイ属(Hapalogenys)に分類され, この属には本種を含め7種が知られています (Iwatsuki and Russell, 2006). 本種は1903年に高知市浦戸魚市場で,命名者の1人である Hugh M. Smith により採集された1標本(体長115 mm)に基づき新種記載され,このホロタイプ (USNM 55610) は米国スミソニアン自然史博物館に保管されています(Smith and Pope, 1906).また,本種の種小名は岸上鎌吉博士に献名されたものです.一般の図鑑では体長30 cm程の中型種とされていますが, 最大では50 cm程度まで成長するようです (Iwatsuki and Russell, 2006). 本種は主上顎骨に鱗が無く, 体側に5本 (大型の個体では3本) の暗色縦帯があること, 口が大きく上顎後端が眼の前縁下を超えることなどで,同属他種と識別が可能です (Iwatsuki and Russell, 2006).

 シマセトダイは南日本からフィリピン近海, 南シナ海にかけて分布するとされています.しかし, 宮崎大学農学部岩槻研究室の精力的な標本収集においても,フィリピン近海では標本が得られず, 正確な分布域は未だ明らかになっていません (島田, 2000; Iwatsuki and Russell, 2006;畑ほか,2012).

 高知県において,シマセトダイは御畳瀬魚市場の大手繰り漁でも良く漁獲されますが, 水揚げされる個体は20 cm前後の小型個体ばかりで, ヒメコダイやアカゴチなどと共に“天ぷら”(練り製品)の材料に使われます. 刺身にしても中々の味ですが, 同じイサキ科のコロダイやコショウダイに比べ,小型個体しか水揚げされないためか, 高知市内のスーパーで本種を見ることはありません.

 いつものように魚市場に行くと, 馴染の漁師さんから変な物が揚がったから食べられる種類かどうか見てくれと声をかけられました. 何が獲れたのだ?と見てみれば, 謎のイサキ科魚類がとろ箱にデンっと横たわっていました. 全長は40 cm程でよく見ればヒゲダイのような顔つきとうっすらと見える暗色縦帯, 足元に落ちていた20 cm程のシマセトダイと見比べ, もしかして?などと思案していると, 漁獲物の選別作業をしている奥様方から持って行けとの一言. いそいそと研究室へ持ち帰り, 調べてみれば確かにシマセトダイの大型個体であることが分かり, にやにや笑いながら標本写真を撮りました. よくよく調べてみれば残念ながら種としての最大サイズには遠く及ばないようですが, 当研究室に収蔵されているシマセトダイの中では最大サイズでした.

参考文献

畑 晴陵・原口百合子・本村浩之.2012.標本に基づく鹿児島県のイサキ科とシマイサキ科魚類相.Nature of Kagoshima, 38: 19–38.

Iwatsuki A. and R. B. Russell. 2006. Revision of the genus Hapalogenys (Teleostei: Perciformes) with two new species from the Indo-West Pacific. Mem. Mus. Victoria, 63 (1): 29–46

島田和彦. 2000. イサキ科. 中坊徹次 (編), pp. 841–846, 1564–1566. 日本産魚類検索 全種の同定. 第2版. 東海大学出版会, 東京.

Smith, H. M. and T. E. B. Pope. 1906. List of fishes collected in Japan in 1903, with descriptions of new genera and species. Proc. U.S. Nat. Mus., 31(1489): 459–499.  *原記載

写真標本:BSKU 106517 , ca. 35 cm SL, 高知県高知市御畳瀬魚市場 (大手繰り, 幸成丸), 採集: 朝岡 隆・三澤 遼・松田直大, 2012年1月22日, 写真撮影:朝岡 隆.

(朝岡 隆)


(C) BSKU Laboratory of Marine Biology, Kochi University