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2013年7月の魚


アカアマダイ Branchiostegus japonicus (Houttuyn,1782)(スズキ目アマダイ科)


 アカアマダイはアマダイ科(Branchiostegidae)アマダイ属(Branchiostegus Rafinesque, 1815 )に属する底生性魚類です.アマダイ属の分類は研究者により見解が異なり,アマダイ科(Dooley ,1978, 1999)あるいはキツネアマダイ科 (Malacanthidae) のアマダイ亜科 (Branchiosteginae or Latilinae) とする場合があります (Nelson, 2006) .また,Imamura (2000) はキツネアマダイ科の浮遊期の仔稚魚の形態が,セミホウボウ科のそれと類似していることに着目し,比較解剖学的研究により見出した8個の共有派生形質にもとづいて,セミホウボウ科とキツネアマダイ科が姉妹群関係にあるとしました.そして,セミホウボウ科のなかにアマダイ亜科,キツネアマダイ亜科,オキナワサンゴアマダイ亜科,セミホウボウ亜科の4亜科を含め,アマダイ属はLopholatilus属とともにアマダイ亜科に分類されました.しかし,最近の遺伝子解析の結果によれば,アマダイ科アマダイ属とすることが妥当と報告されています(Dooley and Iwatsuki, 2012).

 アマダイ科はCaulolatilus Gill, 1862, Lopholatilus Goode and Bean, 1880, そしてアマダイ属の3属30種からなります.アマダイ属は東部大西洋と日本を含むインド・西部太平洋の水深60-600 mの大陸棚から斜面上部に広く分布し,現在17種が知られています.他の2属は西部大西洋と東部太平洋にのみ分布します(Dooley, 1978, 1998; Nelson, 2006; Dooley and Iwatsuki, 2012; Hiramatsu and Yoshino, 2012).アマダイ属魚類は,体が延長する四方形であり,明瞭な頭部背中線をもつこと,背鰭条数が22(6–8棘,14–16軟条),臀鰭条数は14(1–2棘,12–13軟条),有孔側線麟数は45-72枚,脊椎骨数は10+14,尾鰭は載形か二重載形である特徴をもちます(Dooley, 1978; 平松, 2002).

 アカアマダイは南シナ海から日本まで広く分布し,東アジアの水深60-200 mの大陸棚に生息しています.日本周辺では,日本海側は青森まで,太平洋側は千葉県までの海域に分布します(Dooley, 1978; 堀川ほか,2001;Chen et. al. 2002; 藍澤・土居内,2013).現在,日本周辺海域に分布するアマダイ属には,アカアマダイの他に,スミツキアマダイ B. argentatus (Cuvier in Cuvier and Valenciennes, 1830),キアマダイ B. auratus (Kishinouye, 1907),シロアマダイB. albus Dooley, 1978, ハナアマダイ B. okinawaensis Hiramatsu and Yoshino, 2012,の5種が知られています (Dooley, 1978, 1998; Hiramatsu and Yoshino, 2012; 藍澤・土居内,2013).アカアマダイはこれら同属他種より,頬の鱗が厚く皮膚に覆われ,その枚数は8-10枚であること,眼窩後縁に三角形の銀白色の斑紋があり,体中央に大きな黄斑をもち,尾鰭の上葉は朱色で,下葉は暗い灰白色,中央に3本の黄色縦帯をもつことで区別できます.

 本種は1782年にMartius Houttuyn(ハウッタイン)によりCorypheana japonicaとして新種記載されました (Dooley, 1978).この記載に使用された標本は,1775年8月から翌年の12月まで長崎出島に医師として赴任していたThunberg(ツンベリー)により,南日本で採集されたものです.それらの標本は当時バタヴィアにいた外交官であるRadermacherを経由して,医者で博物学者のハウッタインに送られました.その時,彼は42種の動物を記載し,そのうち魚類は22新種を含む36種でした(山口・町田,2003).ハウッタインの記載は簡単で,標徴が明示されておらず曖昧ですが,現在も16種が有効種と認められており,そのうちの1種がアカアマダイです.

  アカアマダイは水産上の重要種であり,白身で美味な魚として知られています(堀川ほか,2001).とくに,京都ではハモと同様に古くから珍重され,若狭の甘鯛として好まれています[京都通(京都観光,京都検定):百科事典,赤甘鯛 ぐじ)].また,静岡県中部地方でも,一夜干しにしたものを興津鯛(季語;冬)と呼称し,古くから食べてられていたようです.この“興津鯛”という地方名の由来は,甲子夜話によれば,徳川家康が献上されたアマダイ属の干物をいたく気に入り,それを献上したのが奥女中の“興津の局”であったので,その名前に由来すると言われています(日本の旬,魚のお話,甘鯛).また,別の説では,慶長年間(1596-1615年)に広瀬又右衛門がアマダイの干物を作り,それを興津河内守が家康に献上したところたいそう美味であると喜ばれ,それで興津鯛と呼ぶようになったとも言われています.どちらが正しいかはさだかでないにしろ,あの戦国の英雄の舌をも満足させた魚であったようです.さらに,江戸時代の著名な絵師である伊藤若冲は“動植綵絵”で,アカアマダイの特徴を捉えた見事な彩色画を描いています.そのほかに,曲亭馬琴もその著書,“馬琴道中記”のなかで,“このあたりもみじめずらし興津鯛“と俳句で詠んでいます.このようにアマダイ類は古くから日本人に好まれていた魚であることをうかがい知ることができます.

参考文献

藍澤正宏・土居内龍.2013.アマダイ科.中坊徹次(編),pp. 867-868, 1987.日本産魚類検索図鑑 全種の同定.第3版,東海大学出版会.秦野.

Chen, G. Z. Chen, Y. Cai and S. Lin. 2002.  Fishes from Nansha Islands to South China coastal waters II, Science Press, Peking. 114pp.

Dooley, J. K. 1978.  Systematics and biology of the tilefishes (Perciformes: Branchiostegidae and Malacanthidae) with the description of two new species. NOAA Technical Report, NMFS circular, 411, i+v+1-78.

Dooley, J. K.  1998.  Bony fishes. Part2: Mugillidae to Carangidae. Family Malacanthidae Vol. 4. Pages 2630-2648. In Carpenter, K. E. and Niem, V.H. eds. FAO species identification guide for fisheseries purpose, the living marine resources of the Western Central Pacific. Roma, FAO.

Dooley, J. K. and Y. Iwatsuki. 2012.  A new species of deepwater tilefish (Percoidea: Branchiostegidae) from the Philippines, with the brief discussion of the status of tilefish systematics. Zootaxa, 3249: 31-38.

堀川博史・ Li, C.・山田梅芳・Zheng, Y.・時村宗春.2001.  アカアマダイの生物学的,生態学的な比較.堀川博史,鄭元甲, 孟田湘(編),pp. 65-76.東シナ海・黄海主要資源の生物,生態特性-日中間の知見の比較.西海区水産研究所,長崎.

平松 亘.2002.アマダイ科アマダイ属魚類の分類学的再検討.高知大学大学院理学研究科生物学専攻修士論文.133pp.

Hiramatsu, W. and T. Yoshino.  2012.  A new tilefish, Branchiostegus okinawaensis (Perciformes: Branchiostegidae) from Okinawa Island, southern Japan. Bull. Natl. Mus. Natr. Sci., ser A (supl. 6): 41-47.

Imamura, H.  2000.  An alternative hypothesis of the phylogenetic position of the family Dactylopteridae (Pices: Teleostei), with a proposed new classification. Icthyological Res., 47 (3): 203-222.

Nelson, J. S.  2006.  Fishes of the world. 4th edition. John, Wiley & Sons, Inc. Hobokon, New Jersey, 601 pp.

山口隆男・町田吉彦. 2003.  Fish specimen collected in Japan by Ph. F. von. Siebolt and H. Burger and now hold by the Natural Natuurhistorisch Museum, in Leiden and other two Museum. Calanus, spec. (4): 87-337.

写真標本データ: BSKU 106454, ca. 300 mm SL, 2011年12月14日,高知市御畳瀬魚市場(幸成丸,大手繰り網),写真撮影: 中山直英

(平松 亘)


(C) BSKU Laboratory of Marine Biology, Kochi University