今月の魚リストへ戻る


2013年8月の魚



ハネダホタルジャコ Acropoma hanedai Matsubara, 1953 (スズキ目ホタルジャコ科)

 ホタルジャコ科ホタルジャコ属魚類は温帯の大陸棚周辺域に分布し,世界では5種が知られ,そのうち日本ではホタルジャコAcropoma japonicum Günther, 1859、ハネダホタルジャコ Acropoma hanedai Matsubara, 1953,オキナワホタルジャコAcropoma lecorneti Fourmanoir, 1988の3種が報告されています(Yamanoue and Matsuura, 2002; Okamoto and Ida, 2002; 波戸岡, 2013).本属は腹部に発光腺,レンズおよび反射層からなる発光器をもつことで,ホタルジャコ科の他属と区別できます(Okamoto and Ida, 2002).また,これまで本属の背鰭は第1背鰭が8棘と第2背鰭が1棘10軟条(鰭式では [-I, 10)とされていました(例えば,山川, 1985; 山田ほか, 2007).一方,Okamoto and Ida (2002)は本属の標本を精査した結果,第1背鰭の第7棘と第8棘が鰭膜でつながらないことを明らかにし(第8棘は独立する),同属の背鰭の鰭式をZ-T-T,10としました.

 ハネダホタルジャコは駿河湾から豊後水道の太平洋沿岸や沖縄舟状海盆,台湾南部,東沙群島の大陸棚縁辺から斜面域にかけての水深100〜250mに生息するホタルジャコ科魚類です(波戸岡, 2013).本種は肛門が閉じた腹鰭の先端近くにあること,発光腺が長いこと,発光腺がU字型であるなどによって,ホタルジャコとオキナワホタルジャコから区別できます(山田他, 2007; 波戸岡, 2013).本種とホタルジャコは,発光腺内に共生する発光細菌により発光することが知られています(羽根田, 1895).本種のように腹部に発光器をもつ種は発光することで自分の影を隠し,下方からの敵の眼をごまかすことができるといわれています(このことをカウンターイルミネーションあるいはカウンターシェーディングと呼ばれています).本種は熊野灘で採集された標本に基づき,京都大学の松原喜代松博士により,新種として記載されました.本種の標準和名と種小名は,横須賀市自然・人文博物館の初代館長であった羽根田弥太博士に献名されたものです.羽根田博士は高知大学の前身の1つである旧制高知高等学校出身の発光生物学者で,魚類だけでなく,クラゲやホタル,キノコなど様々な生物を研究対象としました.

参考文献

羽根田弥太. 1985. 発光生物. 恒星社厚生閣. 東京. 318 pp.

波戸岡清峰. 2013. ホタルジャコ科. 中坊徹次(編), pp. 753, 1959. 日本産魚類検索全種の同定. 第3版. 東海大学出版会, 秦野.

Okamoto, M. and H. Ida. 2002. Acropoma argentistigma, a new species from the Andaman Sea,off southern Thailand (Perciformes: Acropomatidae). Ichthyol. Res., 49: 281-285.

山田梅芳・時村宗春・堀川博史・中坊徹次. 2007. 東シナ海・黄海の魚類誌. 東海大学出版会, 東京. lxxiii+1263pp.

山川武. 1985. ホタルジャコ・ハネダホタルジャコ. 岡村収(編), p. 455.沖縄舟状海盆及び周辺海域の魚類.日本水産資源保護協会,東京.

Yamanoue Y. and K. Matsuura. 2002. A new species of the genus Acropoma (Perciformes: Acropomatidae) from the Philippines. Ichthyol Res., 49: 21–24.

写真標本データ:BSKU 87802 (M5417),103.4 mm SL,2004年1月14日,高知市御畳瀬魚市場(大手繰り網).

(内藤大河)


(C) BSKU Laboratory of Marine Biology, Kochi University