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2014年10月の魚


ヒメクサアジ Metavelifer multiradiatus (Regan, 1907) (アカマンボウ目クサアジ科)

 アカマンボウ目 Lampridiformes には, クサアジ科 Veliferidae, アカマンボウ科 Lampridae, フリソデウオ科 Trachipteridae, リュウグウノツカイ科 Regalecidaeやアカナマダ科Lophotidaeなどが含まれます(藍澤・土居内, 2013; Eschmeyer and Fong, 2014). アカマンボウ目の特徴として, 主上顎骨が口裂からはみ出し,口が開く時には前上顎骨とともに内外にスライドすることが挙げられます. 本目の分類は極めて流動的で, いまだに統一見解に達していません. 今回紹介するヒメクサアジが属するクサアジ科には, クサアジ属Velifer とヒメクサアジ属Metavelifer の2属2種が知られています(尼岡, 2007). クサアジ科は, 体が高く側扁し, 口には歯がなく,胸鰭鰭条数が7から9と少ない,背鰭と臀鰭の鰭条が長く, 体側には縞模様があることが特徴です. また,イタリアとデンマークの始新世の地層から, ヒメクサアジ属に近縁の2属VeronaveliferPalaeocentrotus 属の化石が見つかっています(Nelson, 2006; 尼岡, 2007).

 ヒメクサアジMetavelifer multiradiatus は, 南日本からオーストラリア, 南アフリカに分布し, 水深175mから220mの大陸斜面や海嶺に生息しています. 稀に底曳網で獲られることがあります. 本種の側線はアーチ状で前方が高く,小さな口は著しく突出可能で,背鰭第6棘は著しく伸長し, 臀鰭棘状部と臀鰭には鱗鞘があり,尾鰭は大きくニ叉します. 背鰭軟条部基底に3個の小暗色斑があり, 背鰭前部の5棘が短い, 背鰭が全体的に伸長しないことなどでクサアジと区別できます(岡村, 1985; Nelson, 2006; 尼岡,2007).

 ヒメクサアジは, 世界的にも珍しい魚であるため, 一般的には食用として出回りませんが, 漁師の間では食べられているようです. その肉質は見た目のよい白身ですが, 旨味が少なく独特の臭みもあり,刺身には向いていないようです. 食べるとしたら,塩焼きが良いかもしれません. 非常に稀にはスキューバダイビング中に目撃されたり,釣りで採集されることもあるので, 機会があれば食べてみたいものです.

参考文献

藍澤正宏・土居内龍. 2013. クサアジ科. 中坊徹次 (編),pp. 474, 1864. 日本産魚類検索 全種の同定. 第3版. 東海大学出版会, 秦野.

尼岡邦夫. 2007. クサアジ科. 岡村収・尼岡邦夫 (編),p. 120. 山渓カラ―名鑑 日本の海水魚. 第三版. 山と渓谷社, 東京.

Eschmeyer, W. N. and J. D. Fong. 2014. CAS - Catalog of Fishes - Species by Family.
(http://research.calacademy.org/redirect?url=http://researcharchive.calacademy.org/research/Ichthyology/catalog/SpeciesByFamily.asp) Online Version accessed 20 October. 2014.

Nelson, J. S. 2006. Fishes of the world, 4th ed. Wiley and Sons Inc., Hoboken. 601pp.

岡村収. 1985. クサアジ科.岡村収 (編), pp. 442-443. 沖縄舟状海盆及び周辺海域の魚類U(FIishes of the Okinawa Trough and the adjacent waters II) .日本水産資源保護協会,東京.

Olney, J. E., G. D. Johnson and C. C. Baldwin. 1993. Phylogeny of lampridiform fishes. Bull. Mar. Sci., 52(1): 137-169.

写真標本: NSMT-P75806, 147.6 mm SL, 2006年12月25日, 高知県高知市御畳瀬漁港(大手繰),採集者:高田陽子・中江雅典(写真提供:国立科学博物館動物研究部).

(細井舜也)


(C) BSKU Laboratory of Marine Biology, Kochi University