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2014年12月の魚



アカマダラフサカサゴ Sebastapistes perplexa Motomura, Aizawa and Endo, 2014 (スズキ目フサカサゴ科)

 アカマダラフサカサゴは,房総半島,伊豆半島,伊豆諸島,そして高知県沖の島沿岸の水深2–48 mから採集された43標本に基づいて,先月25日に出版された論文で記載されました(Motomura et al., 2014).学名と標準和名が付けられたばかりです.この論文の中で使われた高知県沖の島産の6標本は,パラタイプに指定されています(BSKUとNSMT登録で,それぞれ3標本).本種のタイプシリーズの最大体長は 50.7 mm ですが,高知県沖の島から得られた雌の体長 24.9 mm の標本(BSKU 91169)は,よく発達した卵をもち,採集時には数個の卵がこぼれ落ちる程でした.このことは,本種がフサカサゴ科魚類の小型種であることを裏付けます.これまで本種は小型種ゆえにフサカサゴ属 Scorpaenaやネッタイフサカサゴ属 Parascorpaena,マダラフサカサゴ Sebastapistes strongia (Cuvier in Cuvier and Valenciennes, 1829) の幼魚や若魚と混同されていました.本種の学名の種小名 "perplexa"は,"confused 混乱した" を意味するラテン語であり,他種と誤って認識されてきた分類学的な混乱に因みます.さらに,本種は伊豆半島,八丈島,そして和歌山県串本では,ダイバーに撮影されており,神奈川県立生命の星・地球博物館の魚類写真データベースには48枚の水中写真が登録されています.標本と写真の産地から,本種は温帯性の日本固有種であり,高知県西南端から房総半島沿岸までの南日本の太平洋岸に分布し,岩礁あるいは砂まじりの岩礁域に生息しています.

 本種はマダラフサカサゴに類似しますが,眼下の涙骨に1棘のみをもつこと(vs. マダラフサカサゴでは2棘か,稀に3棘),胸鰭の鰭条数の最頻値が14本(vs. 15本),主鰓蓋骨上縁付近の不明瞭な黒斑がない(vs ある),下鰓蓋骨や胸鰭基底に黒斑がある(vs. ない),そして鱗の計数形質の多くの変異幅が少ない方へずれることなどで識別できます.


 「日本産魚類検索全種の同定 第三版」には,日本産のフサカサゴ科魚類69種が掲載されました(中坊・甲斐,2013).ミズヒキミノカサゴ Pterois mombasae (Smith, 1957) は,2011年に日本初記録として報告されましたが(松沼・本村, 2013),この版には含められていません.また,ネッタイフサカサゴ属のクロホシフサカサゴ Parascorpaena sp. は,その同定の根拠となった標本調査の結果から,ネッタイフサカサゴ Parascorpaena mossambica (Peter, 1855) の若魚と判明しています(本村,2013).したがって,本種を加えると,現時点での日本産のフサカサゴ科は70種で,日本産のマダラフサカサゴ属 Sebastapistes としては,ハチジョウフサカサゴ S. mauritiana (Cuvier, 1829),ニラミカサゴ S. tinkhami (Fowler, 1946),カスリフサカサゴ S. cyanostigma (Bleeker, 1856),そしてプチフサカサゴ S. fowleri (Pietschmann, 1934)に次いで5種目です.世界のフサカサゴ科は,鹿児島大学総合研究博物館の本村浩之博士とその研究グループにより,精力的に分類学的再検討が行われていますので,今後種数はさらに増えるでしょう.


参考文献

松沼瑞樹・本村浩之.2011.ミノカサゴ亜科魚類ミズヒキミノカサゴ(新称) Pterois mombasae の日本からの初記録および近縁種ネタイミノカサゴ P. antennata との形態比較.魚類学雑誌,58(1): 27-40.

本村浩之.2013.フサカサゴ科.本村浩之・出羽慎一・古田和彦・松浦啓一(編), pp. 33-66. 鹿児島県三島村--硫黄島と竹島の魚類.鹿児島大学総合研究博物館,鹿児島市・国立科学博物館,つくば市.

Motomura, H., M. Aizawa and H. Endo. 2014. Sebastapistes perplexa, a new species of scorpionfish (Teleostei: Scorpaenidae) from Japan. Species Diversity, 19: 133-139. (25 November)

中坊徹次・甲斐嘉晃.2013.フサカサゴ科.中坊徹次 (編), pp. 683-705, 1939-1946. 日本産魚類検索 全種の同定. 第三版. 東海大学出版会, 秦野.


写真標本: NSMT-P 77472, 25.0 mm SL, NSMT-P 77473, 27.2 mm SL, 2007年7月23日,高知県宿毛市沖の島赤崎,水深3m,採集:片山英里,写真撮影:遠藤広光.

(遠藤広光)

(C) BSKU Laboratory of Marine Biology, Kochi University