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2018年3月の魚

シャチブリ Ateleopus japonicus Bleeker, 1853(シャチブリ目シャチブリ科)

 シャチブリ科 (Ateleopodidae) は4属11種が知られ,カリブ海を含む東大西洋やインド・西太平洋,そしてパナマやコスタリカ沖の東太平洋沿岸から水深600mの深海域に広く分布します (Nelson et al., 2016). シャチブリ属 Ateleopus は,背鰭鰭条数が8–10,胸鰭鰭条数が12–14, 臀鰭と尾鰭の合計鰭条数が96–131,鰓耙数が0+8–11,脊椎骨数が113–136(腹椎骨数 26–29 + 尾椎骨数 86–107),上顎に1–3列の小歯が並ぶ,眼の後縁に突出した大きな1棘がある, 腹鰭の先端が広がり丸みを帯びる,尾鰭が長い (73–83 % SL) などの特徴により,他属と識別されます (Kaga, 2016).

 日本周辺に分布するシャチブリ属は, これまでシャチブリ A. japonicus Bleeker 1853, ムラサキシャチブリ A. purpureus Tanaka 1915, タナベシャチブリ A. tanabensis Tanaka 1918,そしてシログチシャチブリA. sp. の4種とされてきました(藍澤・土居内,2013).本属魚類は体がゼリー状で柔らかく,破損しやすいことから分類が難しく,山田・伊東(1982)が東シナ海から2未同定種を,望月(1982)が九州−パラオ海嶺から2未同定種 [1種はのちにシログチシャチブリの和名が提唱され(望月, 1984),もう1種はシャチブリ(Kaga et al., 2015)と判明] を,岡村(1985)が沖縄舟状海盆から1未同定種を報告しています.

 最近,Kaga et al. (2015) は,シャチブリ,ムラサキシャチブリとタナベシャチブリの分類学的再検討を行い,これら3種の重要な識別形質とされた上顎歯の有無や胸鰭長(臀鰭起部に達しないものから,これを超えるものまで),腹鰭長,背鰭鰭条数,鰓条骨数,および体色などにも,明瞭な差異がないことが判明しました.さらに,ミトコンドリアDNAのチトクロームb領域の解析も形態形質による結果を支持し,ムラサキシャチブリとタナベシャチブリはシャチブリの新参異名であることが確実となりました.また,Kaga (2016)はシログチシャチブリを A. edentatus Kaga, 2016として新種記載し,Kaga (2017)は南アフリカ沖から知られる A. natalensis Regan, 1921をシャチブリの新参異名としています.このように本属の分類は,まだまだ再検討の余地がありそうです.

 シャチブリは体がゼラチン質でぶよぶよとしており, いかにも深海魚といった風貌です. 本種は土佐湾などの太平洋沿岸, 日本海沿岸, 瀬戸内海, 沖縄舟状海盆などの水深約150–500mの砂泥底に生息します(藍澤・土居内,2013). しかし,神奈川県立生命の星・地球博物館の魚類写真資料ベースには,静岡県の伊豆半島において水深約30 mで撮影された水中写真が登録されています.普段から採集のためによく訪れる高知市御畳瀬漁港においても,しばしばその姿を見かけますが, 長い体をくねらせながら遊泳する姿を私もぜひ一度見てみたいものです.

参考文献

藍澤正宏・土居内龍. 2013. シャチブリ科. 中坊徹次 (編), pp. 410–411, 1845–1846. 日本産魚類検索 全種の同定. 第三版. 東海大学出版会, 秦野.

Bleeker, P. 1853. Nalezingen op de ichthyologie van Japan. Verhandelingen van het Bataviaasch Genootschap van Kunsten en Wetenschappen. 25 (7): 1­56, pl. 1.

Kaga, T., M. J. P. van Oijen, Y. Kubo and E. Kitagawa. 2015. Redescription of Ateleopus japonicus Bleeker 1853, a senior synonym of Ateleopus schlegelii van der Hoeven 1855, Ateleopus purpureus Tanaka 1915, and Ateleopus tanabensis Tanaka 1918 with designation of a lectotype for A. japonicus and A. schlegelii (Ateleopodiformes: Ateleopodidae). Zootaxa, 4027 (3): 389–407.

Kaga, T. 2016. A new jellynose, Ateleopus edentatus, from the western Pacific Ocean (Teleostei: Ateleopodiformes: Ateleopodidae). Zootaxa, 4083 (4): 562–568.

Kaga, T. 2017. Redescription of Ateleopus japonicus Bleeker 1853, a senior synonym of Ateleopus natalensis Regan 1921 (Teleostei: Ateleopodiformes: Ateleopodidae). Zootaxa, 4238(4): 583-592.

望月賢二.1982.シャチブリ科.岡村収・尼岡邦夫・三谷文夫(編), pp. 114–117, 343–344.九州−パラオ海嶺ならびに土佐湾の魚類: 大陸棚斜面未利用資源精密調査.日本水産資源保護協会,東京.

望月賢二.1984.シャチブリ科.益田一・尼岡邦夫・荒賀忠一・上野輝俑・吉野哲夫(編), pp. 438–441, 653–654. 日本産魚類大図鑑. 東海大学出版会, 東京.

Nelson, J.S., T.C. Grande and M.V.H. Wilson. 2016. Fishes of the world. 5th ed. John Wiley and Sons, Hoboken. xli+707pp.

岡村収.1985.シャチブリ科.岡村収(編), pp. 438–441, 653–654. 沖縄舟状海盆及び周辺海域の魚類II :大陸棚斜面未利用資源精密調査.日本水産資源保護協会, 東京.

Temminck, C. J. and H. Schlegel 1846. Pisces. Part 14. Pages 245–268 in P.F. de Siebold, ed. P.F. de Siebold’s Fauna Japonica, sive descriptio animalium quae initinere per Japoniam suscepto annis 1823–30 collegit, notis observationibus et adumbrationibus illustravit P.F. de Siebold. Lugduni, Batavorum [Leiden].

山田梅芳・伊東弘.1982. 以西漁場の魚類について.昭和56年度漁業資源研究会議西日本底魚部会会議報告,pp. 59–70.

写真標本:BSKU 36542, 570 mm SL, 土佐湾(高知市御畳瀬漁港で採集),大手繰り網,1982年2月27日.

(泉 幸乃)


(C) BSKU Laboratory of Marine Biology, Kochi University