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2019年4月の魚


イブリカマス Sphyraena iburiensis Doiuchi and Nakabo, 2005(スズキ目カマス科)

 スズキ目カマス科(Sphyraenidae)は,世界の熱帯から温帯のサンゴ礁域や沿岸域に分布する肉食性魚類です.本科は体が円筒形で細長いこと,吻が長く尖ること,口が大きく,長い犬歯状歯が上顎に2対と下顎に1本あること,背鰭が2基で互いによく離れることが特徴で,多くの種では最大で体長30cm 程度ですが,オニカマスSphyraena barracudaは1m以上に成長します.現在,カマス科はカマス属 Sphyraena の1属のみを含み,約21有効種が知られています(土居内,2018).そのうち,日本には次の9種が分布するとされています:オニカマスSphyraena barracuda,オオカマス Sphyraena putnamae,オオメカマス Sphyraena forsteri,アカカマス Sphyraena pinguis,タイワンカマス Sphyraena obtusata,イブリカマス Sphyraena iburiensis,ホソカマス Sphyraena helleri,ヤマトカマス Sphyraena japonica,そしてオオヤマトカマス Sphyraena africana(瀬能,2013).
 イブリカマスSphyraena iburiensisはDoiuchi and Nakabo (2005) によって,45標本に基づき記載されました.そのうち,ホロタイプを含む32標本は高知県土佐清水市の以布利で,残りの13標本は和歌山県串本町と静岡県伊東市の川奈で採集されました.種小名の”iburiensis”はタイプ標本が採集された以布利に因んでいます.本種はカマス科のうち,次の5形質からタイワンカマスSphyraena obtusata (Cuvier, 1829) に最も類似します:体側に2本の縦帯がある,第1鰓弓の鰓耙が2本,側線有孔鱗数(イブリカマスでは81–85 vs. タイワンカマスでは78–85),第1背鰭の鰭膜が完全に透明,尾鰭が黄色でその縁辺が黒い.しかし,イブリカマスは側線上方鱗数が多い(イブリカマスでは8.5–9.5 vs. タイワンカマスでは5–7.5),側線下方鱗数が多い(10.5–11.5 vs. 8.5–9.5),頬の鱗が多い(7–10 vs. 5–7),上顎が短い(10.7–12.8 % SL vs. 11.4–14.3 % SL),体側の2縦帯の状態(下方の縦帯が明瞭 vs. 上下とも不明瞭)などの特徴によってタイワンカマスと識別されます(Doiuchi and Nakabo, 2005).イブリカマスは記載当時には南日本の太平洋沿岸からのみ知られていましたが,現在はアンダマン海や紅海からも記録されています(Doiuchi and Nakabo, 2005;土居内,2018).
 写真個体は,2019年1月24日に本種のタイプ産地である,土佐清水市の以布利漁港(定置網)で採集されました.当日はイブリカマスの他に,クロマグロ,ウルメイワシやカタクチイワシなどが水揚げされていました.本種は,比較的最近の2005年に記載されましたが,珍しい種というわけではなく,土佐清水市のスーパーでは普通に売られている身近な魚です(中坊,2006).以布利では,本種とタイワンカマスは区別されることなく“アラガマス”と呼ばれているそうです(土居内,2001).皆さんの身近にも,よく調べてみると学名がない,新種の魚が隠れているかもしれません.

参考文献

土居内龍.2001.カマス科.中坊徹次・町田吉彦,山岡耕作・西田清徳(編),pp. 254–257. 以布利 黒潮の魚 ジンベイザメからマンボウまで.大阪 海遊館,大阪.

土居内龍.2018.カマス目.中坊徹次(編),pp. 442–443.小学館の図鑑Z 日本魚類館 精緻な写真と詳しい解説.小学館,東京.

Doiuchi, R. and T. Nakabo. 2005. The Sphyraena obtusata group (Perciformes: Sphyraenidae) with a description of a new species from southern Japan. Ichthyological Research, 52: 132–151.

中坊徹次.2006.いのちの科学プロジェクトシリーズ.テーマ:文理融合をめざして.10 新種の発見とはどういうことか 食卓に上った新種の魚.健康と環境,19 (4): 417–428.
http://www.taishitsu.or.jp/inochi-u/homemenu/web-content/NewFiles/rejime14.html(参照 2019-03-16).

瀬能 宏.2013.カマス科.中坊徹次(編),pp. 1636–1639, 2219–2221. 日本産魚類検索 全種の同定.第3版.東海大学出版会,秦野.

写真標本:BSKU 125592,201mm SL,2019年1月24日,高知県土佐清水市以布利漁港,定置網,採集:遠藤広光・水町海斗,写真撮影:水町海斗.

(水町海斗)



(C) BSKU Laboratory of Marine Biology, Kochi University