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  我々は、何を目指しているか?

EMARS法の開発と応用

膜マイクロドメイン抗体の作製と応用

硫酸化糖脂質の機能解明

硫酸化糖タンパク質の機能解明

プロテオミクスを基盤とした分裂期染色体動態研究





  我々は、何を目指しているか?

生体膜は流動的であるが、ランダムで均一な構造体ではなく、ところどころに分子の集合体をつくる。このように分子が集まった微小領域を『膜マイクロドメイン』という。この膜マイクロドメインを介して膜の内外の情報伝達が行われるので、生体にとってとても重要な場である。

膜マイクロドメインは静的構造体ではなく、刺激に応じてミリ秒単位で融合・解離を繰り返す。我々は、膜マイクロドメインがどのようにつくられるかを解明するために研究している。

このため、『膜マイクロドメインをみる分子の眼』を求めて、以下の新しい方法論の開発に取り組んでいる。
(1)EMARS法
(2)膜マイクロドメインに対する単クローン抗体の作製

この他、実際の生体の膜マイクロドメインで起こっていることを解明するために、野生型マウスと硫酸化糖脂質欠損マウスを比較しながら、精子形成細胞における硫酸化糖脂質膜マイクロドメインの分子機能の解明を目指している。


  


EMARS法の開発と応用

EMARS法の開発:
EMARS法は、生きている細胞の細胞表面で会合する分子を見つけるための方法である(1-3)。我々は偶然に、通常光アフィニティーラベリングに利用されるアリールアジド基が西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)によってナイトレンラジカルを生じることを発見し、enzyme-mediated activation of radical sources(EMARS)と命名した(1)。

 
EMARS反応



産生されたラジカルは短命で消退するまでに限られた距離しか届かないので、プローブ分子の近傍分子にのみ攻撃し共有結合する。免疫電顕により、EMARS 反応によりプローブ分子の周囲200〜300 nm の範囲の分子が標識されることを確認した(1)。この距離は刺激を受けて寄り集まった脂質ラフトのサイズに一致する。

EMARS反応で標識された分子は、抗体アレイシステムで同定した(1-3)。抗体アレイシステムは高感度に、かつ、容易に分子を同定できるが、限られた種類の抗体しか搭載されていない。この不足を補完するために、EMARS産物の同定に質量分析によるプロテオミクス分析法を用いた(4)。

 
抗体アレイによるEMARS標識タンパクの同定




 
質量分析によるEMARS標識タンパクの同定



EMARS法の改良:
標識試薬にフルオレセインチラミドを用いる改良EMARS法を開発した(10)。チラミドのラジカル化には過酸化水素を必要とするが、従来用いていたアリールアジドと比して反応性が高く、内在性酵素による非特異的反応も抑制された。この改善により、細胞内オルガネラ内の会合分子の解析が可能となった(10)。

 
チラミドを用いる改良EMARS法



EMARS法の応用:
機能的分子間相互作用を見つけるためにEMARS法を活用し、フィブロネクチン依存細胞移動に影響を及ぼすβ1 インテグリンとErbB4 間における空間時間依存的相互作用(5)と、抗体医薬品のリツキシマブの刺激によって誘導されるCD20とFGFR3の相互作用(6)を見いだした。さらに、B細胞リンパ腫においてGPI-アンカータンパク質の一種のThy-1が特定のチロシンキナーゼ型受容体と相互作用することを見いだした(7)。

遺伝子工学で発現させたHRPを用いてEMARS反応を行う新バージョンのEMARSシステムを樹立した(8-10)。HRPを脂質ラフト内に発現させるため、HRPをGPI-アンカー型にした。ヒト崩壊促進因子(DAF)とヒトThy-1 由来のGPI 付加シグナル配列をそれぞれ別個にHRPのC末端に連結した2 種類のGPI-アンカー型HRP融合タンパク質(HRP-GPI)をヒトHeLa S3細胞に発現させ、生きている細胞上でこれらのHRP-GPI を用いてEMARS反応を行った。その結果、異なるGPI 付加シグナル配列をもつHRP-GPIは、異なるN型糖鎖付加を受け、異なる分子会合体を形成した。さらに、元来のDAFはHRP-DAFGPIと、元来のThy-1はHRP-Thy1GPIともっぱら会合し、DAFはHRP-DAFGPIと同様にコンプレックス型糖鎖を、Thy-1はHRP-Thy1GPIと同様にハイマンノース型糖鎖を有していた(10)。以上のことから、各GPI-アンカータンパク分子種はGPI付加シグナルに依存して固有の脂質ラフトを形成することが明らかとなった。これらの実験結果は、EMARS法は個々の脂質ラフトドメインを分別できることを示す。

 
GPI付加シグナルに依存した固有の脂質ラフト形成



発表論文

1) Kotani N, Gu J, Isaji T, Udaka K, Taniguchi N, Honke K.: Biochemical visualization of cell surface molecular clustering in living cells. Proc. Natl. Acad. Sci. U. S. A. 2008;105:7405-7409

2) Honke K, Kotani N.: The enzyme-mediated activation of radical source reaction: a new approach to identify partners of a given molecule in membrane microdomains. J. Neurochem. 2011; 116:690-695

3)Honke K, Kotani N.: Identification of cell-surface molecular interactions under living conditions by using the enzyme-mediated activation of radical sources (EMARS) method. Sensors 2012; 12:16037-16045

4)Jiang S, Kotani N, Ohnishi T, Miyagawa-Yamguchi A, Tsuda M, Yamashita R, Ishiura Y, Honke K.: A proteomics approach to the cell-surface interactome using the enzyme-mediated activation of radical sources reaction. Proteomics 2012; 12:54-62

5)Yamashita R, Kotani N, Ishiura Y, Higashiyama S, Honke K.: Spatiotemporally-regulated interaction between β1 integrin and ErbB4 that is involved in fibronectin-dependent cell migration. J. Biochem. 2011; 149:347-355

6)Kotani N, Ishiura Y, Yamashita R, Ohnishi T, Honke K.: Fibroblast growth factor receptor 3 (FGFR3) associated with the CD20 antigen regulates the rituximab-induced proliferation inhibition in B-cell lymphoma cells. J. Biol. Chem. 2012; 287:37109-37118

7)Ishiura Y, Kotani N, Yamashita R, Yamamoto H, Kozutsumi Y, Honke K.: Anomalous expression of Thy1 (CD90) in B-cell lymphoma cells and proliferation inhibition by anti-Thy1 antibody treatment. Biochem. Biophys. Res. Commun. 2010; 396:329-334

8)Miyagawa-Yamaguchi A, Kotani N, Honke K.: Expressed glycosylphosphatidylinositol-anchored horseradish peroxidase identifies co-clustering molecules in individual lipid raft domains PLoS ONE 2014; 9:e93054

9)Miyagawa-Yamaguchi A, Kotani N, Honke K.: Segregation of lipid rafts revealed by the EMARS method using GPI-anchored HRP fusion proteins. Trends. Glycosci. Glycotech. 2014; 26:59-69

10)Miyagawa-Yamaguchi A, Kotani N, Honke K.: Each GPI-anchored protein species forms a specific lipid raft depending on its GPI attachment signal. Glycoconj. J. 2015 Oct;32(7):531-40.






膜マイクロドメイン抗体の作製と応用

膜マイクロドメイン抗体の作製:
膜マイクロドメイン構成分子に対する抗体を作製するため、細胞からDRM(detergent resitant membrane microdomain)画分を調製し、 これを直接マウスに(アジュバントなしに)免疫して単クローン抗体を作製した。この方法のオリジナルは国立成育医療センター研究所の片桐、藤本らによる(Katagiri YU, et al. Glycoconj. J. 2001; 18:347-353)。

膜マイクロドメイン抗体の応用:
<リン脂質が作る神経細胞膜の区画化>
神経細胞は、シナプス領域、複数の軸索領域、細胞体領域など異なった機能を担う多数の領域に区切られている。こうした細胞内の機能的領域化により方向性を持つ情報伝達や、複雑な神経回路の形成が可能になる。異なった機能領域の細胞表面には、各々の機能に対応する異なった種類の蛋白質が局在分布して各領域の特化した機能を実現している。

 
神経細胞の機能領域




細胞表面を取り巻く細胞膜は、リン脂質の二重膜からなり、細胞膜上の蛋白質は速い速度で時々刻々位置を変えている。このように流動的な細胞膜に存在する蛋白質を、どのようにシナプス領域等の決められた範囲に集めて、目的の機能(神経伝達分子の放出やその制御等)に特化した領域を細胞が維持しているのか不明であった。

細胞膜の基本成分であるリン脂質の各分子は、脂肪酸を2本持ち、付加される脂肪酸の様々な組み合わせにより生じる分子種多様性と呼ばれるがバリエーションがあることが知られている。細胞は、一旦単純な組み合わせを持つ脂肪酸を付けたリン脂質を合成した後、わざわざリン脂質リモデリングと呼ばれる複雑な酵素反応を用いて脂肪酸をすげ替える。この過程を経て多様なリン脂質分子種バリエーションを作成する。しかしながら、今まで各リン脂質分子種の細胞内での分布状況や、細胞が多様な分子種を作る生物学的意義が不明であった。


 
 生体膜を構成するリン脂質の構造



我々は、sn-1位に不飽和脂肪酸を持つ1-オレオイル-2-パルミトイル-ホスファチジルコリン (OPPC)を認識して結合する単クローン抗体の作製に成功し、これを用いてOPPCが培養神経細胞の神経突起先端部やマウス脳のシナプス部位に局在することを発見した。さらに、神経細胞がリモデリング反応を用いて突起先端部でOPPCを作り、形成されたOPPCによる細胞膜領域が神経伝達を調節するドーパミン輸送タンパクやGαoの局在を制御することを明らかにした。

 

 培養神経細胞(ラットPC12細胞)におけるリン脂質OPPCの神経突起先端部への局在(赤色部分)
 今回作製したOPPCに対する単クローン抗体を用いて、免疫染色法によりOPPCの細胞内分布を解析した。






神経細胞におけるリン脂質リモデリング



ホスホリパーゼA1活性が神経突起先端部に局在する。
OPPCを産生するリン脂質リモデリング反応を蛍光法で検出した。



この研究成果により、リン脂質の脂肪酸組成の違いがつくる細胞膜微小環境が神経細胞のシグナル伝達に重要な役割を果す可能性が示され、パーキンソン病や認知症における病態との関連性が注目される。



リン脂質リモデリングによる細胞膜上での機能領域の形成

神経突起先端部の細胞膜上でリン脂質リモデリングによりOPPCが作られる。この結果突起先端部にOPPC濃度の高い細胞膜領域が形成される。この脂質組成の違いを認識してドーパミン輸送体等の一部の蛋白質が先端部に局在するようになる。



発表論文
“Functional Compartmentalization of the Plasma Membrane of Neurons by a Unique Acyl Chain Composition of Phospholipids”
Kuge H, Akahori K, Yagyu KI, Honke K. J. Biol.Chem. 2014; 289:26783-26793





硫酸化糖脂質の機能解明

哺乳動物の主要な硫酸化糖脂質には サルファタイドセミノリピドがある。
サルファタイドとセミノリピドは、糖鎖構造は全く同じ ガラクトース3-硫酸であるが、脂質部分が異なる。 サルファタイドの脂質部分はセラマイドで、 スフィンゴリピドである。 セミノリピドの脂質部分はアルキルアシルグリセロールで エーテルグリセロリピド である。


 
       




サルファタイドは、神経組織のミエリン合成細胞である オリゴデンドロサイト(中枢神経系)と シュワン細胞(末梢神経系)で合成され、 ミエリン鞘に豊富に存在する。

オリゴデンドロサイトの分化の過程では、前駆細胞が移動と増殖を止め、 最終目的地で最終分化を始めるときに発現しはじめ、その後の細胞系譜、 ミエリン鞘で発現しつづける。サルファタイドは、 オリゴデンドロサイトのマーカー抗体として有名な O4のエピトープである。


  



一方、精子形成細胞は精原細胞(spermatogonia)から分化するが、 セミノリピドは、精母細胞(spermatocyte)の初期から生合成され、 その後の半数体細胞である精子細胞(spermatide)、精子(sperm) で発現しつづける。


  



我々は、硫酸化糖鎖、とくに 硫酸化糖脂質 の生合成と機能について研究を行っている。 これまで、糖脂質硫酸転移酵素(CST)の分離精製、 遺伝子クローニングを世界に先駆けて行い、 ガラクトースの3位の水酸基に硫酸基を付加するガラクトース3-硫酸転移酵素の遺伝子ファミリーを発見した。 このファミリーには4つのメンバーが存在し、全て染色体が異なる。 得られた硫酸転移酵素の遺伝子を細胞工学的に操作することにより、 硫酸化糖鎖の生物学的機能を研究してきた。

なかでも、CST遺伝子ノックアウトマウス の作製と解析により、 硫酸化糖脂質がミエリン機能精子形成 に必須の分子である ことを証明したことが特記される。CST欠損マウスでは、 脳におけるサルファタイドと精巣におけるセミノリピドを完全に欠き、 ミエリン−アクソン接合形成異常精子形成障害を来たす。

また、CST欠損マウスのオリゴデンドロサイトの最終分化は速まることから、 サルファタイドがオリゴデンドロサイトの最終分化を負に制御することが明らかとなった。


ミエリン−アクソン接合形成異常


図の左半分に示すように、正常マウスでは、 有髄神経のランビエ絞輪のパラノード部においてミエリンとアクソンが接合し、 これが隔壁となってナトリウムチャネルとカリウムチャネルの集合体が、 それぞれノード部と傍パラノード部に形成される。 一方、右半分に示すように、スルファチド欠損マウスでは、 ミエリンとアクソンの接合形成が障害され、 ナトリウムチャネルとカリウムチャネルの集積化が乱される。


  
精子形成障害

            +/+              -/-
      
  


   CST欠損マウス(右)の精子形成は、第1減数分裂中期までで停止する。
分裂中期の細胞が融合して多核となった変性細胞が特徴的である。


硫酸化糖脂質を研究することの利点
1)個体機能にとって必須であることが遺伝学的に証明された。
2)糖鎖の構造が単純であるので、遺伝子発現を含めて生合成の過程を追うことが比較的容易である。
3)反面、キャリヤー(脂質)部分の構造が異なるものがあり、発現分布と機能も異なる。
4)硫酸化糖脂質は最終産物であるので、表現型の異常は硫酸化の欠損によるとみなせる。
5)CSTノックアウトマウスの異常部位が限局しているので、硫酸化糖脂質の分子メカニズムを解明する場合の研究対象を限局させることができる。 つまり、その部位だけで分子から生命現象のなりたちまでが完結している。

もっと詳しく知りたい方へ

1)本家孝一: 硫酸化糖脂質の生物機能、Beyond Glycogenes, Glyco Forum, http://www.glycoforum.gr.jp/indexJ.html

2)Honke K.: Biosynthesis and biological function of sulfoglycolipids. Proc. Jpan. Acad. Ser. B Phys. Biol. Sci. 2013; 89:129-138




  

硫酸化糖タンパク質の機能解明

糖鎖リモデリングによる癌転移制御

(目的)細胞表面の糖鎖構造を変換して、がん細胞の転移を制御する。

糖タンパク質硫酸転移酵素GP3ST は、糖タンパク質糖鎖の Galb1-4GlcNAc あるいは Galb1-3GlcNAc 構造のガラクトースの3位の水酸基を硫酸化する。 この硫酸転移酵素はシアル酸転移酵素と競合して、腫瘍マーカーとして有名な シアリルルイス抗原(CA19-9、SLEX) の発現を抑制して、代わりに スルホルイス抗原 を産生する。 シアリルルイス抗原は癌転移に関与して予後に影響することが知られているので、 GP3ST遺伝子を導入することにより、 大腸癌細胞や肺癌細胞の転移を抑制する ことを目指す。








プロテオミクスを基盤とした分裂期染色体動態研究

これまでに開発したプロテオミクス解析手法MCCP(Multi-Classifier Combinational Proteomics)法 (Ohta et al, Cell 2010) とnanoRF (nano Random Forest) 法 (Ohta et al, Mol Cell Proteomics 2016)を用いることで、染色体タンパク質の相互作用あるいは制御階層構造を見出すことに成功しています。これらの手法で、タンパク質の個々の翻訳修飾サイト間の機能的な相互作用や階層構造を明らかにしていくことを目指しています。染色体の分配機構を制御するタンパク質のリン酸化修飾は、抗がん剤のターゲットにもなっているが、本研究ではそのリン酸化を包括的に観察することができる(Ohta et al, J Proteome Res 2016)。そのため、将来的な発展として、疾患予防や治療につながる知見の獲得につながっていきます。



図 MCCPによるプロテオミクスの多次元解析(Ohta et al, Current Opinion in Cell Biol 2011より抜粋)
MCCPは、Nature Methods及びDevelopmental Cell等でも紹介され、Faculty of 1000によりExceptional(最高評価)の評価を受けました。
Developmental Cell: Preview by Weijie Lan and Don W. Cleveland
Nature Methods: Research Highlight by Nicole Rusk (PDF)
Faculty of 1000: Evaluation by Iain Cheeseman (Rating: Exceptional) and Silke Hauf (Rating: Exceptional)
Science Daily
Biotechniques

プロテオミクスを基盤出してきた新規染色体タンパク質とその機能仮説について遺伝学・細胞生物学の手法を用いて証明しています。新しい染色体分配のメカニズムの発見を通して、我々の手法の有用性も示していきます。これまでに複数の新規タンパク質の機能解析を行っています。

図 GFPを融合してSka3の分裂期での局在を観察 (Ohta et al, Cold Spring Harbor Symposia on Quantitative Biology 2010)


図 新しいタンパク質の機能はCRISPR/Cas9によるノックアウトやsiRNAによるノックダウンによる表現型を観察することで調べています




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