研究の進め方

研究材料:
海底堆積物(表層堆積物,ピストンコア,深海掘削試料)

対象とする時代:
主に第四紀後期,始新世/暁新世,太古代

研究海域: 
南大洋,オホーツク海,黒潮域,西オーストラリア

 海底堆積物を過去の気候・海洋環境変動の記録者であるととらえ,微古生物学的,堆積学的,地球化学的手法を用いて古気候・古海洋変動を復元する研究を行っている.研究材料は,各種コアラーで採取した表層堆積物や海底柱状試料およびODP(国際深海掘削計画)による掘削試料等である.研究対象とする海域は熱帯から極域まで多岐にわたるが,ここ数年間は南北高緯度海域における古海洋変動に注目し,それらがグローバルな気候変動に対してどのように応答あるいは影響を与えているかについて研究を行ってきている.特に,気候温暖期とその後の寒冷化における海洋環境の変遷史を紐解くことを目指している.


1.研究テーマの立案

 アイデアがあって初めて研究が成り立ちます.地球環境変動や古海洋学の分野で,今,何が問題になっているのか,どんな現象が注目されているのか,時代は?手法は? なるべくアンテナを広く張って,いろいろなことに興味をもつ努力をしています.

2.研究テーマに最適な場所に行き,良質の材料(堆積物コア)を採取する.

 これまで古海洋研究に携わってきて痛切に感じていることは,研究テーマに合った良質の試料を入手すること,および,フィールドに出かけ,自らの手で試料を採取することの重要性です.私はこれまで,海底堆積物の採取を主な目的として様々な研究航海に参加し,ピストンコアラー等による採泥技術や堆積物の様々な処理・解析法,海洋観測に関する諸作業を経験・習熟する機会を得ました.これには,ドクター時代に東大海洋研に在籍したことが大きく影響しています.航海中はいろんな人と,様々な観測・作業をします.これがまた楽しいし,身になることが多いのです.それらの作業や異分野の研究者との交流を通じて,現在の海況,気象,生物活動などを含めた試料採取域の生の姿を見ることの重要性も認識しました.現場の風景,波の様子,海の色,風,雰囲気,すべてがその後の研究に生きてきます.

3.プロジェクト研究の推進

4.社会における位置付けを意識する.

 古環境・古海洋研究に携わる者にとっての社会的責任として以下の2点が重要であろうと考える.

(1)地球の気候システム自体がもっている様々な変動の周期や振幅を明らかにし,地球環境の多様な姿や奥深さ,不思議さを魅力的に伝えること.

(2)近い将来人為的温暖化が進行した際に,地球の気候システムがどのようなふるまいをする可能性があるのか,地質学的事例をもって地球の将来像を提示すること.

 そのためのアプローチの一つとして,現在よりも温暖だった時代の海洋環境をグローバルに復元することが有効かつ必要であろうと考えています.具体的には,現在の一つ前の間氷期である最終間氷期(Eemian:約12万5千年前)や酸素同位体比ステージ11(約41万年前)などの「気候温暖期」における海洋環境変遷を詳細に復元し,過去に実際に起こっていた温暖地球の実態を解明することを目指しています.そのために,ODP第177次航海における掘削試料を用いて,酸素同位体ステージ11前後における南大洋の古海洋変動を明らかにする研究を進めています.