動物の分類体系へ戻る 2.後生動物の進化


1.後生動物の起源

Q1.後生動物(=多細胞動物)は,どのような単細胞生物から進化したのか?
Q2.後生動物は単系統群か?

後生動物の起源には諸説あるが,おもな2説は以下の通りである.

1)群体起源説(colonial theory)・ガストレア起源説*(gastrea theory):(ヘッケル説)

 後生動物は,群体性の単細胞生物に起源し(鞭毛虫類の集合・群体化),もっとも祖先的な後生動物は放射相称の体制をもつものとする考え.ヘッケルは仮想の祖先動物をガストレア*とした.これは内外二胚様とくぼみ(原腸)をもつ,嚢胚に似た動物である.後生動物内では,放射相称動物(刺胞動物や有櫛動物)から左右相称動物(原始的な扁形動物)が生じたと考えた.

2)繊毛虫類起源説(ciliate theory)(ハッジ説)
   =渦虫類起源説(turbellarian theory)・無腸類起源説(acoele theory)・多核体起源説(syncytial theory)

 後生動物は,左右相称の繊毛虫様の祖先に起源し,単細胞の多核化を経て多細胞化したとする考え.そのため,左右相称で無体腔の扁形動物(無腸類)がもっとも祖先的な後生動物に近いと考えた.したがって,放射相称動物は左右相称動物から派生したと予想した.

 近年の分子系統仮説からは,後生動物の単系統性とその姉妹群が立襟鞭毛虫類であることが示唆された.また,立襟鞭毛虫は群体を形成することや,海綿動物がもつ襟細胞と似た形態を示すことからも,現在は群体起源説(ヘッケル説)が有力と考えられている.

 Brusca and Brusca (2003: 875) は形態形質に基づく分岐解析により,後生動物の共有派生形質として次の形質を挙げている:Ch.2, multicellularity present(多細胞化);Ch. 4, Epidermal epithelia with septate or tight junctions present(細胞間のセプテート結合あるいはギャップ結合);Ch. 10, Collagen present in body present(体にコラーゲンをもつ);Ch. 18(1), Cleavage pattern, 1=foundamentally radial(卵割様式は放射卵割);Ch. 23, Spermatozoa present(精子をもつ).

*Brusca and Brusca (1990) では,多細胞化,アセチルコリン・コリンエステラーゼ系(細胞間の情報伝達系),コラーゲン(結合組織),およびセプテート結合あるいはタイト結合(細胞間の接着様式)の4つを共有派生形質とした.

参考文献
Brusca, R.C. and G.J. Brusca (2003) Invertebrates, 2nd ed. Sinauer Associates, Inc., Publishers, 936 pp.
白山義久 編(2000)バイオディバーシティー・シリーズ5 無脊椎動物の多様性と系統(節足動物を除く).裳華房,東京.326 pp.
田近謙一(1995)ヘッケル説とハッジ説の対決.Pp. 68-80 in 馬渡峻輔編著.動物の自然史--現代分類学の多様な展開--.北海道大学図書刊行会,札幌.
八杉龍一・小関治男・古谷雅樹・日高敏隆 編(1996)岩波 生物学辞典 第4版.岩波書店,東京.2028 pp.


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