◆自然科学系農学部門の井原賢准教授らの研究成果が「Environmental Science & Technology」誌に掲載されました

2023年4月28日

 自然科学系農学部門の井原賢准教授を責任著者とする研究グループの研究成果が、2023年4月6日付けで「Environmental Science & Technology」誌に掲載されました。

 人が服用した医薬品は、し尿とともに下水処理場へ流入し、下水処理を経た後に河川等の水系へ放出されることが世界各地で明らかとなっています。人の処方箋医薬品の半数(高血圧治療薬、抗アレルギー薬、血管拡張剤、抗うつ薬など)は、モノアミンとよばれる神経伝達物質の作用を阻害するよう作られているので、水生生物の繁殖や行動、環境応答の異常、水生生態系の破壊が懸念されています。井原准教授は、下水を介して水環境に排出される神経細胞に作用する医薬品が生態系へ与える影響を解明する研究に取り組んでおり、下水及び河川水から医薬品の薬理活性(※1)が検出されることや、抗うつ薬が人のモノアミントランスポーター(※2)だけでなく魚(ゼブラフィッシュ)の受容体も阻害することを世界に先駆けて明らかにしてきました。

 本研究グループは、抗うつ薬の薬理活性を定量できる細胞試験(モノアミントランスポーター阻害アッセイ)を用いて30種類の抗うつ薬とその代謝物の薬理活性を測定し、活性の強さを順位付けすることに成功しました。抗うつ薬そのものだけでなく、その代謝物も強い活性を持つことが分かりました。また、抗うつ薬は人よりもゼブラフィッシュに強く作用することも明らかにしました。そして、日本とイギリスそれぞれにおいて使用量の多い抗うつ薬を調査し、薬理活性の強さと下水放流水中の濃度の高さから、水生生態系保護の視点から特に注目して研究すべき抗うつ薬をリストアップしました。日本とイギリスの下水処理場調査を実施し、両国における下水中の抗うつ薬の存在実態の違いの解明につなげることができました。

 本研究成果は、水生生態系保護の視点から、さらなる実態の調査や魚類での毒性試験の実施が期待されるものです。

 

(※1)薬理活性・・・薬が細胞表面の受容体を阻害または活性化する作用。

(※2)モノアミントランスポーター・・・モノアミンは神経伝達物質の一種であり、セロトニンやドーパミンが該当する。モノアミントランスポーターはこれらモノアミンを透過させる膜タンパク質である。

 

【論文情報】

論文タイトル:Biological-Activity-Based Prioritization of Antidepressants in Wastewater in England and Japan

著者:Han Zhang, Daisuke Kato, Mariko O. Ihara, Monika D. Jürgens, Andrew C. Johnson, Jingwen Chen, Hiroaki Tanaka, Masaru Ihara

雑誌名:Environmental Science & Technology (2023)

URL: https://pubs.acs.org/doi/full/10.1021/acs.est.2c08380

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