「魚類」/温暖化とどうつきあうか 一生態系の変化と適応策一
海藻構成種の変化と魚類 撮影者:寺園裕一郎・中村洋平
「海中の森林」とも呼ばれるガラモ場やカジメ場は、水産有用種を含むさまざまな魚類の餌場や産卵・成育場として利用されています。土佐湾沿岸では、1970年代には周年にわたりガラモ場やカジメ場が形成されていましたが、2000年代にはそれらが残る場所は一部に限られ、晩冬から初夏の数ヶ月しかガラモ場が形成されない場所が増えています。周年にわたり海藻の繁茂する藻場を「四季藻場」、春しか藻場が形成されないものを「春藻場」と呼びます。この「四季藻場」と「春藻場」の海藻構成種には違いがあり、前者ではトゲモク、ヒラネジモク、ヨレモクモドキなどの温帯性ホンダワラ類が主要構成種であるのに対して、後者は熱帯・亜熱帯域に主分布域をもつキレバモクやマジリモクなどの熱帯・亜熱帯性ホンダワラ類によって形成されています。土佐湾の海藻構成種が温帯種から熱帯種に変化してきていることで、魚類が藻場を利用できる期間が春~初夏に限られてくると考えられています。
初夏における須崎市久通の熱帯性ホンダワラ藻場

秋~冬の間、熱帯性ホンダワラ藻場は姿を消す

土佐市萩崎 の温帯性ホンダワラ藻場に出現したメジナの稚魚(撮影5月)
サンゴ群集域の拡大と魚類 撮影者:中村洋平

高知県須崎市横浪半島 のサンゴ群集域で
見られるチョウチョウウオ類
近年の海水温の上昇に伴い土佐湾では岩場に造礁サンゴ類が群生してきています。岩場とサンゴ群集域(以下,サンゴ域)の魚類相を比較してみると、熱帯性魚類の種数は岩場よりもサンゴ域で1.5倍も多く(個体数では約3倍)、特にサンゴ食が多いチョウチョウウオ類はサンゴ域で優占しています。冬季海水温の上昇とサンゴ域の拡大によって、熱帯性魚類が過ごしやすい環境になってきているようです。