大学紹介

平成29年度 高知大学大学院入学式告辞

 高知大学大学院人間自然科学研究科へ入学された皆さん、ご入学おめでとうございます。
 皆さんは、大学で学んだことと比較すると、一段も二段も高いレベルにある最先端の研究に挑戦するために大学院へ進学されました。
 研究とは、豊富な知識をもとに、未だ解決されていない領域を発見し、仮説を立て、実験や調査を通して仮説を証明する作業であります。それは、星明かりを頼りに小舟で大海にこぎ出す冒険家の行為にも似ており、ワクワクするほどに心が踊る一方で、リスクを抱え、悩み、動きがとれない状況に陥ることもあるでしょう。
 研究を進めるためには、これまで以上に多くの知識と技術を修得することはもちろんのこと、豊かな想像力と発想力、広い視野を持ちながら小さな点をも識別できる鳥瞰力、調査力と実行力、物事の本質を見いだす洞察力、そして成果をまとめて説得力のある論文に仕上げる文章力・表現力などが必要とされます。これらの能力を修得するためには、研究対象の歴史と現状を理解し、多くの最新論文を読破して理解すると同時に、論文の論理や結論は本当に正しいかと常に疑問を抱くことに加え、日頃から、身近にある課題を発見する習慣と指導教員や研究仲間との真摯で深い議論の繰り返し、信頼関係の構築などが必要であります。その過程には、失敗や計画の練り直しを伴うのが常であり、失敗から学んだことによって、研究者は粗玉から光り輝く玉に磨き上げられるのです。研究することの意義は失敗経験にあるといっても過言ではありません。失敗を楽しむ余裕が生まれ、失敗を新たな学びのチャンスと捉え、成功の種に転化させる分析力と評価力、直感力、そして継続力などが身についた時に、期待するデータが手に入ることが多いのです。それ故に、研究をやり遂げた先達の多くは、学部の学びとは比較にならない、社会人、そしてリーダーに求められる高い能力を身につけているのです。
 さて、AI全盛時代に活躍するために必要な能力はこれから修得する最新の知識でも先端技術でもありません。それは、新たな知や技術を生み出す能力であります。それがリサーチマインドなのです。研究は優れたアクティブ・ラーニングであり、PDCAサイクルの繰り返し、そして失敗と失敗から学び立ち直る経験の繰り返しでもあります。さらに、研究は優れた洞察力や直感力も育ててくれます。AIには失敗する能力が欠如していますので、失敗して落ち込むことはなく、失敗から何かを学び取る力もありません。また、研究には常識にとらわれない発想が求められますが、データに基づかない思考はAIにはありません。イマジネーションすなわち想像力や洞察力、直感力も人間だけが修得可能な優れた能力であります。皆さんには、研究を通して、これらのAIには持てない能力を修得されることを期待しております。
 研究の基本が、研究者自身の自由な発想と知的好奇心にあることは、論を俟たないのでありますが、二十一世紀の科学・技術は、文化の成熟をはるかに超える速さで進化しており、一歩間違えれば人類を、そして世界を瞬時に崩壊させる危険性さえ孕んでおります。だからこそ、人文社会科学的智恵による科学・技術の監視が必要であり、文理統合の教育研究と人文社会科学の教育研究がこれまで以上に重要視されているのです。さらに、研究成果を社会に公表し、専門家だけではなく、一般社会からも、その価値と意義について評価を受けることも必要です。第三者の審査・評価を受けない研究成果は、研究者の自己満足に過ぎず、「益無くして害多し」となるリスクを抱えることになります。二十年、三十年以上先を見据え、将来、自分の研究成果が持続可能社会の実現や人類の発展にどのように寄与するのか、ということを意識しながら研究することや、第三者の審査・評価を受けることの重みを感じることも科学者に負わされた責務であり、研究者の良心であります。
 最後に、これから洪水の如く押し寄せてくる、最先端の知識を学ばれる皆さんに次のことばを贈り、学長告辞とします。
 「眼力を養うのは知識だけではない、知識に寄り掛かれば目は曇る。知識は感性と悟性(思考力)につもってくる垢である。」
 研究を成功に導くには、多くの良質な知識を身につけることが必要です。しかし、過去の知識に依存し過ぎると、見えるものも見えなくなってしまいます。今日のエビデンスは、明日にはエビデンスではなくなる危うさを抱えていることを忘れないで下さい。繰り返します。
 「眼力を養うのは知識だけではない、知識に寄り掛かれば目は曇る。知識は感性と悟性につもってくる垢である。」
 入学おめでとう。

 
 

平成29年4月3日
高知大学
学長 脇口 宏

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